深刻な人手不足のタクシー業界、高齢化も進み…「新幹線がお客さんを運んでくるのか確信ない」

【グラフィックレコード】足りないタクシー運転手
タクシー車両が並ぶケイカン交通の車庫。各事業者は運転手不足に直面している=福井県あわら市の同社

 福井県タクシー協会の矢崎孝明会長は、経営するケイカン交通(あわら市)の車庫に並ぶ営業車両を厳しい表情で見つめた。「車の稼働率は下がっている。特効薬は見つからない」。北陸新幹線の県内開業まで7カ月余り。2次交通の一角を担うタクシー業界は深刻な人手不足に直面している。

 県内の法人タクシーの運転手は939人(3月末時点)で、2016年の1252人から25%減った。長引く景気低迷に新型コロナウイルス禍が重なり、“お得意様”の出張サラリーマンや酔客の利用は激減した。運転手の高齢化も進み、平均年齢は64歳。毎年数十人が業界を去っていく。

 各事業者とも新幹線開業後の客足に期待し、車両数はおおむね維持しているが、維持費に加えて高騰する燃料費も重くのしかかる。ある業界関係者は「経営体力が限界に近い会社もある」と打ち明ける。

 7月上旬の正午過ぎ、JR芦原温泉駅で客待ちしていた70代運転手は嘆いた。「新幹線がお客さんを運んでくるのか確信が持てない。辞めていく同僚の気持ちはよく分かる」

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 観光事業者も運転手不足を不安がる。坂井市三国町の旧市街一帯をオーベルジュ(宿泊機能付きレストラン)化する大規模プロジェクトは、24年1月開業に向け町家10棟18室の改修が進む。運営会社「Actibase(アクティベース)ふくい」は、最寄りの新幹線芦原温泉駅からのアクセスはタクシーが軸になるとみている。

 宿到着後も、周辺の散策や近隣観光地巡りにタクシーは欠かせない。樋口佳久社長は「旅先の印象を左右するという意味で、交通の便は観光の鍵。我々事業者とタクシー業界、行政が一丸となって、台数確保を考えていくべきだ」と危機感を募らせる。

 観光業関係者の一部からは、一定のエリアを国家戦略特区にして、一般住民による有償運送(通称白タク)を認めてはどうか、との声も上がっている。

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 「お客さんのファーストコンタクトとして、タクシー(の存在)は非常に大きい」。杉本達治知事は6月補正予算案の発表会見で、来県者がストレスなく移動できる環境整備に本腰を入れる考えを示した。予算には2種免許の取得支援や就職奨励金といった運転手確保の施策も盛り込んだ。

 県協会はドライバー確保に向け、全体の5%に満たない女性運転手の受け入れ拡大にも力を入れる。ケイカン交通は10月完成予定の新しい営業所に女性専用のシャワー室や仮眠室を設ける予定だ。

 敦賀第一交通(敦賀市)に勤務する11人の女性運転手の一人(54)は7年前、子育てが一段落したのを機にパート勤務から転職し、現在は日中に週6日働いている。「思ったほど体はきつくないし、女性の方が話しやすいと言ってくれるお客さんもいる。多くの女性に挑戦を勧めたい」。県協会の矢崎会長は「観光客に一番近い場所でおもてなしができ、頑張り次第で収入が増える。女性や若い人にも仕事の魅力を発信していく」と力を込めた。

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 来年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第4章に入ります。テーマは「駅を降りてから」。県外客に観光地などへどう足を運んでもらうか、2次交通を含めた取り組みと課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン連載シリーズ一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

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