夫婦一代限りと決め創業50年、亡き夫へ「今日で最後です」 福井の人気ソースカツ丼店ふくしん最後の200食

最後の営業を終えのれんを下ろす橋爪節子さん=7月31日午後8時ごろ、福井県福井市高木中央1丁目の「レストランふくしん」

 福井名物ソースカツ丼。その人気の一端を担った「レストランふくしん」(福井県福井市高木中央1丁目)が7月31日、創業50年の節目に閉店した。「最後の一杯をなんとしても食べたい」。明け方から熱狂的なファンが列をなし、店先は終日、何かのイベントのような人だかりだった。腹ぺこの学生時代、記者もよくお世話になったふくしんの最後の一日に密着した。

【午前7時】

 強い日差しが照りつける中、店先には15人ほどが列をつくっていた。多くは閉店することを知って最近足を運んだが、売り切れで食べられなかった「リベンジ組」。午前5時過ぎに並んだという男性(21)は「昔からなじみの味。最後は絶対食べておきたくて」。開店の時を心待ちにしていた。

 厨房では店主の橋爪節子さん(72)が慌ただしく準備作業中。事前に受けた持ち帰りの注文もあり、この日用意するのは200食分超。フライヤーにカツを休む間もなく投入し、きつね色に揚がった熱々を特製ソースにくぐらせた。

【午前10時半】

 気温は既に30度超え。日傘やうちわを手に並ぶ約80人に店員が水を配る。熱中症対策のため、通常より30分前倒しして開店した。

 多くの客が4枚のカツが丼から豪快にはみ出す「カツ丼(大)」を注文していた。運ばれてくると、丼のふたにカツを移してご飯にたどり着く“儀式”を実践。自身と“同い年”ということもあって店に強い思い入れがある男性(50)は「やっぱりおいしい。涙が出そう」。一口一口、かみしめていた。

⇒フタが閉まらない…ふくしん名物の豪快なカツ丼

【午前11時】

 行列は約100人まで伸びていた。昼の営業分はオーダーストップしたというのに、駐車場には次々と車が入ってくる。

 「もう昼の分は終わりました」。ドライバーに声をかけるのは、過去に店でアルバイトをしていた男性(36)。7月上旬から、仕事が休みの日にボランティアで駐車場整理をしてきた。「お世話になった恩があるので。何か手伝いたいと思って」

【午後2時半】

  昼の営業が終わるころには、夜の営業を待つ人の行列ができていた。先頭に陣取った男性(51)は、並びながら遅めの昼食を取っていた。「最後は絶対食べると決めてたので、急いで仕事を終わらせて来ました」と笑う。

 県外にもファンは多い。女性(20)は石川県津幡町から家族で2週連続の訪問。「ヒレとロース肉が選べるのがいい。名残惜しいです」と残念がった。

⇒旧西武福井店新館ビルの予定が判明、2021年閉鎖から空きビルに

【午後4時半】

 行列は再び100人近くに伸びていた。夜の部も30分前倒して営業開始。昼と違ってビールのアテに楽しむ客もちらほら。

 持ち帰りのカツを取りに来たのは、近くに住む男性(51)の夫妻。「ご主人が健在だったころは出前もしていて、僕はそれを食べて育った。ほんとは店で食べたかったけどね」。カツと引き換えに、節子さんに感謝の花束を手渡した。

⇒「イオンなし県」の福井にイオンスタイル

【午後7時半】

 最後の客になったのは、家族で訪れた女子高生(16)。学校終わりに列に飛び込み、店員から「最終受け付け」の札を受け取った。「小さい時から食べているから懐かしい味という感じ。おいしかったけどさみしいです」

 閉店間際には、節子さんの親族や友人らも店に駆けつけた。「長いことお疲れさんやったの」。ねぎらいの言葉をかけ、花束やプレゼントを手渡した。

 ■  ■  ■

 「今日で最後です」。節子さんは朝、仏壇の前で亡き夫眞一さん(享年59)に伝えたという。夫婦で一代限りと決めて創業し50年。眞一さんが亡くなった後は、長女の美幸さん(48)、店長の吉川雄次さん(68)と共に店を守り続けてきた。

 「走りきった、という感じ。お客さまにはありがとうございました以外言葉はないです」(節子さん)

 午後8時。晴れやかな笑顔で客を見送り、店先ののれんを静かに下ろした。

© 株式会社福井新聞社