きょう原爆の日

 「どうして彼らのことを『サバイバー』と呼ぶのか、理由が分かった気がします。僕は何にも知らなかった…」。さっきまで快活に笑っていた少年が一生懸命に言葉を探すようにして話してくれた。目が赤い▲「生き残り」と呼ぶのは、皆、死んだはずだ、とか、死んだかもしれないと命名者が考えていたからだ、だから、真っ先に思い浮かんだ単語が「生き残り」だったのだ-。それが核の惨禍を初めてつぶさに知った少年の推論だった▲こんな苦しみは世界のどんな場所でも二度と繰り返されてはいけない、ナガサキから来た私たちと会ったきょうのことを忘れないで-。被爆者らの口調に力がこもった▲25年前の秋、最初の「高校生平和大使」と訪ねたニューヨークの学校での出来事を今も鮮明に覚えている。決まり文句のように言う「被爆の実相」が小さく、しかし、とても確かに伝わった手応えがあった。被爆者の言葉の強さと存在感を改めて感じた▲遠い記憶を引っ張り出したのには理由がある。この旅でご一緒した被爆者の森口貢さんが86歳で昨年12月、被爆2世の丸尾育朗さんが75歳で今年の5月に亡くなった。きちんとお別れをできずにいた▲きょう8月9日。「原爆の日」が“いない誰か”を思う日になりつつあることに、今更のように気づく。(智)

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