【習い事】初めての「金継ぎ」体験。人気の理由は?誰でもできる?

骨董市で見つけたお気に入りや大切な人からもらったものなど、ずっと手元に置いておきたい器。

でも陶器や磁器は、どれだけ大切に扱っていても、ふいに欠けたり割れたりしてしまうことも。そんなとき、助けになるのが古くから日本に伝わる伝統技術・金継ぎ(きんつぎ)です。

今回は朝日カルチャーセンターで金継ぎを教えている桜井朋子先生に、金継ぎの魅力を教えてもらいました。

鎌倉時代から続く日本の伝統技術「金継ぎ」って何?

桜井朋子先生

23年ほど前、こちらの朝日カルチャーセンターで教えていた先生の元に入門したという桜井先生。

「はじめた動機は器が好きだったから。でも壊れたときに金継ぎ屋さんに出すと結構お高いんですよね。当時はあまり金継ぎを学べる教室がなかったのですが、講座に出会って自分で直せるようになりました」

その後、先生の助手としてお手伝いするようになり、昨年の春に新教室を担当した後、今年の春から先生の引退に伴い従来の教室も受け持つようになりました。

まず、金継ぎとはどのような技術なのでしょうか。

「金継ぎと言ってもさまざまな方法があります。私たちが行っているのは室町時代からある手法で、本物の漆を使って壊れた器や欠けた器を修繕します」

直す器は陶器や磁器が中心。長く在籍される方の中には、ガラスや漆器も修復する方もいらっしゃるそうです。

20年以上通い続けている生徒さんも!一度体験したらやめられない金継ぎの魅力とは?

講座は1期につき5~6回で、1回の講座時間は2時間ほど。性別を問わず30〜90代の方まで、幅広い年代の方が通っています。中には20年ほど学び続けている方もいるそうです。

しかも、1期だけ学んで辞める人はほとんどいないと言うから驚きです。

「最初の動機は『器が好きだから』『自分で直したい』という方が多いです。

教えるときは、その人のこだわりに合わせて手順を変えているのですが、全講座(6回ほど)を終えて、作品が完成にいたることはほとんどありません。

器に対してだけでなく、直すときにもこだわりがある方が多いため、ひとつひとつの工程を丁寧にすすめる方が多いのです」

工程ごとの仕上がりが作品の最終的な出来に響くため、お気に入りの器ほど同じ作業を繰り返すことも多いと言います。

講座中は、皆さん無言。「作業に集中できるのも楽しいと思います」と桜井先生。

友人からの頼まれものを直したり、メルカリで購入した器を使って楽しみながら修理しているそうです。

生徒さんが持ちこまれる器は自分の家で使っているものの他にも、周りの人に頼られた器やメルカリで買って実験的に直しているものなど様々です。

金継ぎの作業工程6ステップ

金継ぎはどのような作業を経て完成するのでしょうか。工程について教えてもらいました。

「割れた器を修理する場合は6工程、欠けた器を修理する場合は5工程あります。

漆が乾く時間が必要ですので、作業できるのは1日1工程です。

工程によっては同じ作業に3~4回かかってしまうこともよくありますので、きれいに仕上げるには5回ではなかなか終わりません。

ただ、ご事情でお急ぎでしたらお手伝いさせていただいて1クール(5~6回)で完成させることもできます。」

  • つける: まずは、割れた箇所を糊漆(生漆+小麦粉)で接着する。
  • うめる:接着しても隙間ができてしまうのでその部分を錆漆(生漆+砥の粉)で埋め、乾かす。
  • 成形:その後、刀やサンドペーパーを使い形成する。

成形がうまくいかない場合は錆漆を再度付けます。この作業を怠ると出来上がりに影響するので何度か繰り返します。

漆で盛り上がったところは刀(とう)で削る
続いて紙やすりできれいに整える

4.錆固め:糊漆や錆漆の部分をサンドペーパーで研ぎ生漆を塗り乾かす。

5.呂色漆:生漆の部分をサンドペーパーで研ぎ、次に呂色漆を塗り乾かす。

右がろ色、左が生漆

6.絵漆、加飾:呂色漆を耐水ペーパーで研ぎ、弁柄(ベンガラ)が入った赤い漆を塗り、乾き際に金や銀、錫などを蒔いて仕上げる。

蒔き物をせずに色漆で仕上げることもできます。

蒔絵粉と呼ばれるものには、様々な素材や種類があります。

青や赤の色漆で仕上げた作品

「価格の高騰もあり、金は高くなっていますね。銀の場合は経年変化で色が変わってきますが、逆にその変化を楽しむこともできます。

錫(スズ)はリーズナブルで色味が涼しげ、そして色の変化が少ないので最近人気です。」

右が丸粉、左が消し粉という金で仕上げた作品。 丸紛のほうが若干価格が高く仕上げも難しい
ベースとなっている濃い色とのコントラストが目を引く銀
こちらはスズ。素人目には銀との違いがわからない……

「どの工程にも天然素材しか使っていないので、使い手としても安心できます。

また、かなり丈夫なので電子レンジや食洗機さえ避ければ、日常の中でのNGはありません。

もし金や銀などで加飾した部分がとれてきたら、またやり直すこともできます」

普段使いに耐えられるだけでなく、その後もメンテナンスできる点は長く使いたい人にとって魅力的ですね。

教室へ通うからこそ得られるものがある。金継ぎ講座の魅力

漆を使うため、素材が肌に合わないなどで断念する方もいるそうですが、多くの人が一度体験するとハマる金継ぎ。

その工程は、手を動かすことが好きならば惹かれること間違いなし。

生徒さんは黙って器と向き合っていました

「不器用な方でも知識がなくても、器が好きなら問題ありません。必要に応じて講師も手伝うので、安心して通っていただけます」

技術を習得すれば、自宅で材料を揃えて作業することも出来ると思います。

それでも講座に通い続ける人が多いのだとか。

「ほかの受講生とお会いしたり、家を離れて自分ひとりの時間に没頭したり、参加者の目的も色々です」

割れたワイングラスの足を金継ぎで変えることも

最後に、一度体験した人がハマってしまって金継ぎの最後の魅力は何なのか、考察しました。

「自分が思い描いたものに近づいたときの喜びはひとしおですよね。また、金継ぎを通して、器や自分自身と向き合う時間そのものを楽しんでいるのだと思います」

手塩にかけて、より魅力的に変わる器を生み出す。 丁寧で贅沢な暮らしを手に入れられる大人の習い事だと感じました。

朝日カルチャーセンター新宿教室・講座情報

金継ぎA 器をよみがえらせる / 第2・4週金曜 15:30~17:30 /全5回

受講料(税込)会員 18,700円 /設備費(税込)825円

金継ぎB 器をよみがえらせる / 第2・4週金曜 18:00~20:00 /全5回

受講料(税込)会員 18,700円 /設備費(税込)825円

一からはじめる金継ぎ 本漆で繕う /第1・3週 日曜 10:30~12:30 /全5回

受講料(税込)会員 18,700円 /設備費(税込)825円

※別途材料費が必要です

(ウェルなわたし/ ミノシマ タカコ)

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