【明日海りお】だからこそ醸し出される風情がある『精霊の守り人』音楽劇をレポート

音楽劇『精霊の守り人』より、バルサ役の梅田彩佳 撮影/曳野若菜

TVドラマやアニメ、ラジオドラマなど、様々な形で親しまれてきたファンタジー小説の名手・上橋菜穂子による『精霊の守り人』が音楽劇として舞台化。

新ヨゴ皇国の第二皇子チャグム(黒川想矢/込江大牙のダブルキャスト)は、精霊の卵を宿したことから命を狙われることとなる。

護衛を依頼された女用心棒バルサ(明日海りお/梅田彩佳のダブルキャスト)は、幼なじみの呪術師タンダ(村井良大/山崎樹範のダブルキャスト)や大呪術師トロガイ(雛形あきこ)の助力を得て、チャグムを守るために戦うのだった。

(画像)音楽劇『精霊の守り人』公演写真

明日海だからこそ醸し出される風情

音楽劇『精霊の守り人』より、バルサ役の明日海りお(右)とチャグム役の黒川想矢 撮影/曳野若菜

ダブルキャストのうち明日海・村井・黒川のゲネプロでは、まず明日海の凛々しく、その一方でチャグムを受け入れ、守ろうとする懐の深さも兼ね備えた佇まいが印象に残る。

音楽劇『精霊の守り人』より、チャグム役:黒川想矢(左)、バルサ役:明日海りお 撮影/曳野若菜

さらにバルサのつらい生い立ちが明かされる場面などでは、暗い色気すら漂わせた憂いに息をのんだ。おそらくこれは、明日海だからこそ醸し出される風情だったのではないか。

音楽劇『精霊の守り人』より、タンダ役:村井良大 撮影/曳野若菜

タンダも、バルサとの強い絆がある一方で切ない思いを抱え、複雑な内面を表現。観客をほっとさせるような笑いどころも担い、村井が土の匂いがするような存在感を発揮しながら芝居をしっかり支えていた。

この辺りは、ダブルキャストの梅田・山崎はまた違う持ち味を発揮して楽しませてくれそうだ。

ほかのキャストも、それぞれの役どころを忠実に果たして好印象。帝(唐橋充)の悠然としつつも底知れぬ様子、理性的に事態の解明にあたろうとする星読博士シュガ(水石亜飛夢)の姿も、大きな役割を果たしている。

音楽劇『精霊の守り人』より 撮影/曳野若菜

雛形は、端正な美しさをもつ二ノ妃と、トロガイのおばあさんっぷりとのギャップの大きさが目を引く。トロガイではコメディエンヌぶりも十二分に発揮、力量を見せつけた。

音楽劇『精霊の守り人』より、二ノ妃を演じる雛形あきこ(右) 撮影/曳野若菜

帝の命でチャグムを追う狩人たち(渡部秀、小野塚勇人、健人)は、バルサとの戦いやクライマックスでの戦いなどでパワフルに立ち回りを展開。観客を時にワクワクさせ、またある時にはハラハラさせて、エンタテインメント性を高めることに大きく貢献している。

中央アジアの雰囲気を活かした音楽やダンス、歌

音楽劇『精霊の守り人』より、バルサ役の梅田彩佳 撮影/曳野若菜

さらに、開幕直前の取材でキャストが口にしていたように、音楽やダンス、歌も中央アジアの雰囲気を活かしつつ、非常に魅力的なものとなっていた。

音楽劇『精霊の守り人』より、バルサ役の明日海りお 撮影/曳野若菜

舞台装置は、紗幕に描かれた山地や異世界の光景が幻想的な美しさ。呪術や水の表現など布を使った演出も、舞台ではスタンダードなものだが、十二分に効果を発揮していた。

なかでも秀逸なのは、静止画の風景の中で鳥だけが動きを見せ、鳴き声を聞かせていたこと。これが物語を表現する上で、ある種の要となっていたのではないだろうか。

音楽劇『精霊の守り人』より、帝役:唐橋充 撮影/曳野若菜

そうした舞台を形作るすべての要素が、上橋菜穂子による原作『精霊の守り人』を忠実に、そしてリスペクトを込めて表現している。

原作が好きで、あるいは多少なりとも興味があって訪れた観客にとって、こんなに嬉しいことはないだろう。

幅広い層に愛されている原作だからこそ、ファミリー向けのフェスティバル公演と一般をも対象とする特別公演の2パターン※で上演されることにも納得がいく。

音楽劇『精霊の守り人』より、星読博士シュガ役:水石亜飛夢(左)、トロガイを演じる雛形あきこ 撮影/曳野若菜

※本公演は、舞台鑑賞が初めてとなる多くの子どもたちの心に永く残る作品を目指し、家族で楽しめる上演時間約2時間の「日生劇場ファミリーフェスティヴァル公演」として、日生劇場及び大阪、新潟、千葉、山口にて上演、また、各地の小学生を学校単位で無料招待するニッ セイ名作シリーズ公演(鑑賞教室公演)としても5道府県を巡回する。なお、日生劇場 では開場60周年を記念して、上演時間を拡大した「特別公演」も上演された。

配信情報

日生劇場開場60周年記念 音楽劇『精霊の守り人』特別公演
内容:2023年8月1日(火)13:00日生劇場での特別公演を収録したもの(アーカイブ配信)
キャスト:バルサ 明日海りお/チャグム 黒川想矢/タンダ 村井良大
配信期間:2023年8月13日(日)22:00まで
配信チケット販売期間:2023年8月12日(土)16:59まで
配信チケット:3,500円

商品情報

アーカイブ配信と同じ2023年8月1日(火)13:00特別公演を収録したものを再編集し、配信映像とは違う角度で楽しめる映像としてパッケージ化

DVD:8,800円(税込)品番 AQBD-77607
Blu-ray:8,800円(税込)品番:AQXD-77608
【収録内容】 ※字幕あり
・本編映像:2023年8月1日(火)13:00回公演
・特典映像:明日海りおスペシャルインタビュー映像、バックステージツアー映像(予定)
・舞台写真掲載オリジナルブックレット付

公演情報

日生劇場開場60周年記念 音楽劇『精霊の守り人』

原作:『精霊の守り人』 上橋菜穂子 作/偕成社 刊
脚本:井上テテ
演出:一色隆司
音楽:かみむら周平

【出演】
明日海りお、梅田彩佳 ※Wキャスト
渡部秀、水石亜飛夢、小野塚勇人(劇団EXILE)、健人、唐橋充/黒川想矢、込江大牙 ※子役・Wキャスト
雛形あきこ/村井良大、山崎樹範 ※Wキャスト
麻実れい(声の出演)
池田美佳、及川崇治、杉浦勇一、東間一貴、福本鴻介、森山晶之、矢島みなみ、吉田彩美

【演奏】
Key:かみむら周平、杉田未央
Vc:大島純
Reed:相原雅美
Perc:岡田直樹

【全国公演】
※全国公演の主催者は各地で異なります。詳細は各会場にお問い合わせください。

■枚方公演
2023年8月13日(日) 会場:大阪・ 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
キャスト:バルサ 明日海りお/チャグム 込江大牙/タンダ 山崎樹範

■新潟公演
2023年9月3日(日) 会場:新潟県民会館 大ホール
キャスト:バルサ 梅田彩佳/チャグム 黒川想矢/タンダ 山崎樹範

■東総公演
2023年9月9日(土) 会場:千葉県東総文化会館 大ホール
キャスト:バルサ 梅田彩佳/チャグム 込江大牙/タンダ 山崎樹範

■岩国公演
2023年10月1日(日) 会場:山口・シンフォニア岩国 コンサートホール
キャスト:バルサ 梅田彩佳/チャグム 黒川想矢/タンダ 山崎樹範

【ニッセイ名作シリーズ公演】
本作品は、ニッセイ名作シリーズ公演として、小学生を対象とした無料招待公演も実施。
※学校・学年単位の招待公演です。一般の方の鑑賞はできません。

2023年8月31日(木) 長野・サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)
2023年9月6日(水) 新潟・柏崎市文化会館アルフォーレ
2023年9月13日(水) ~15日(金)北海道・ 札幌文化芸術劇場hitaru
2023年9月20日(水)・21日(木) 大阪・NHK大阪ホール
2023年9月28日(木) 熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール

(ウレぴあ総研/ 金井 まゆみ)

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