虫で食えるユーチューバー・むし岡さん「あの動画で人生変わった」 尼崎出身、昆虫愛が高じて…

虫捕り網を手にポーズを取るむし岡だいきさん=東京都港区

 少年時代、兵庫の山で昆虫を追いかけた時の情熱を、画面を通して伝えるユーチューバーがいる。尼崎市出身のむし岡だいき(本名・富岡大輝)さん(33)。昆虫を扱うチャンネルの運営で生計を立てる数少ない一人だ。昆虫への愛情はもちろん、明るく関西弁を駆使した動画は「子どもに安心して見せられる」と親からも支持される。なぜ、ユーチューバーになったのですか-。(堀内達成)

 むし岡さんのメインチャンネルの登録者は18万5千人(8月9日現在)。首都圏を拠点に昆虫採集や飼育の様子を伝える。絹糸を吐くカイコを育てて生態を解説するほか、図鑑に載る全ての昆虫の捕獲を目指す企画などこれまでに約700本を投稿した。虫を見つけた時に発する「おった!」は人気フレーズに。日本で昆虫ユーチューバーをなりわいにできているのは「10~20人ぐらいでは」と、むし岡さんは推測する。

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 動画制作を始めたきっかけは音楽だった。学生時代に神戸・三宮の路上やライブハウスで、アコースティックギターを手に、弾き語りに夢中になった。大学卒業と就職を機に関東に移り、音楽活動も休止したが1年半で退職。再び音楽の道を歩き始めた。

 アルバイトを掛け持ちして活動する中、知人のお笑い芸人がライブで流す映像用にカブトムシ採集を企画。虫の知識を伝える助っ人として参加したところ、観客の反応がよく「面白い動画が撮れる」との感触を得た。IT企業でシステムエンジニアとして働いていたことがあり、動画制作にも自信があった。2018年9月、1本目の動画を世に出した。

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 当初は、登録者数は思うように伸びなかった。転機は80本目ぐらいにアップした動画。バッタ目のコロギスの体内から寄生虫の幼虫がはい出す場面を捉えた映像を、愛情を注いで育てたコロギスが弱っていく悔しさを込めた感想と同時に配信した。動画にコメントが残されたことを知らせる通知が鳴りやまず、千人ほどだった登録者数はたった1日で3、4千人増え、1週間で1万人になった。

 「あの動画で人生が変わった。ユーチューバーとしてやっていける自信がついた」と振り返る。1本目から10カ月後のことだった。

 小学3年の頃、早朝に父親が虫捕りに連れて行ってくれた。父親が木を蹴るとミヤマクワガタが4匹、ぼとぼとと落ちてきた。その時の興奮が今も忘れられない。当時の夢は虫博士。好きな昆虫はバッタ目で、キリギリスやコオロギなど音を出す虫に目がない。「鳴き声が聞こえて『ここにあいつらがいる』と思うとテンションが上がるし、捕獲できなくても音だけで楽しめる」と語る。

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 人気チャンネルに成長した今も「なぜ支持してもらえるのか分からない」とか。子どもやその親から応援されていることもファンレターなどで知った。だからといって親子層にターゲットを絞るつもりはない。

 「たぶん子どもって、大人が真剣に遊んでいる様子に引かれるのでは。お兄ちゃんたちがキャーキャー言って盛り上がっているのを見て『僕も加わりたい!』って」。自分が面白いと思える動画をアップして「世の中に昆虫好きが増えてくれることが目標」と無邪気な表情を見せる。

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