「金沢に導かれた作品」 島清恋愛文学賞の吉田さん 贈呈式で語る

島清恋愛文学賞の贈呈式に出席し、学生から花束を受け取った吉田さん(手前中央)と村山さん(同右から2人目)=金沢学院大

  ●物語のテーマ「吉田健一の言葉に着想」 

 金沢学院大が主催する第29回島清(しませ)恋愛文学賞の贈呈式は10日、初めて同大で行われ、「ミス・サンシャイン」(文藝春秋)で受賞した吉田修一さん(54)をたたえた。吉田さんは、昭和の大女優と男子大学院生の年齢差を超えた心の交流を描いた物語で、底流をなす反戦のテーマについて、金沢ゆかりの作家・英文学者の吉田健一の言葉に着想を得たと明かし、「金沢に導かれて書いた作品だとこの場所に来て気付いた。あらためて感謝したい」と喜びを語った。

 贈呈式には学生ら約150人が出席。長崎出身の吉田さんはあいさつで、9日が故郷で78年目の「原爆の日」だったことに触れ、「本作では、恋愛を書くつもりでも原爆の小説をがっつり書く気持ちでもなかったが、今回の受賞で自分なりの反戦小説が書けたように思う」と振り返った。

 吉田健一が記した「市民が戦争に反対する唯一の手だては、それぞれの日々を美しくし、美しく過ごす日々に執着することだ」との一文に感銘を受け、そのイメージを物語の核に据えた。吉田さんは、作中で描いた長崎出身の女優「和楽(わらく)京子(きょうこ)」を挙げ、「日々を美しく、それに執着している人を考えながら書いた」と創作秘話を明かした。

 島清恋愛文学賞は学生が候補作の検討に携わる全国に例のない文学賞であることについて「若者の感性に触れる作品を書くことができ、うれしい」と述べた。

 贈呈式では選考委員の秋山稔学長が吉田さんに賞状を手渡した。選考委員を代表して選考経過を報告した作家の村山由佳さんは受賞作について、伝えたいことを無理に説明し過ぎず、読者の想像に委ねる余地があると紹介。学生に来年以降の選考のポイントを助言した。贈呈式後、吉田さんと村山さんが学生の質問に答える文芸交流会が開かれた。

 10日は大学・高校生向けの創作ワークショップも催され、文藝春秋で長年、文芸誌の編集に携わり、4月から金沢学院大特任教授を務める羽鳥(はとり)好之(よしゆき)さんが小説の書き方の基本を指導した。

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