資産の凍結、相続人の揉め事…親が認知症になると何が起きるのか?

年齢を重ねるほど発症する可能性が高まる認知症。高齢化が進むなか、誰もがなりうる認知症がどのような病気なのか、一緒に確認していきましょう。


誰もがなりうる認知症とはどんな病気?

下記は、政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」にある、認知症についての説明です。

さまざまな脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態

一言で認知症と言っても、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症などの種類があり、65歳未満で発症した場合は若年性認知症と言われています。

年を取ると誰でも物忘れなどの症状はありますが、物忘れの自覚があるのが“加齢”による物忘れ、自覚がないのが“認知症”とされています。ただし、認知症の初期には物忘れに対する自覚があることも多いと言われていますので、「何かおかしい!」と思ったら、早めにかかりつけの医師や医療機関などへ相談してみることをおすすめします。

親が認知症になると、何が困る?

認知症を発症すると「判断能力」が低下します。認知症が進行して重度になると、「判断能力がない」と判断される可能性があります。判断能力に問題がある場合、自分自身で財産管理することが難しくなります。自分で財産管理できなくなった場合、次のような問題に直面する可能性があります。

知らぬ間に、悪質な詐欺に巻き込まれている

高齢者を狙った詐欺の手口は年々巧妙になってきています。特に、認知症の高齢者は認知機能の低下によって被害に遭いやすいと言われています。

警察庁が公表した「令和3年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」によると、特殊詐欺の被害件数は14,498件、被害額は282億円で、高齢者を中心に被害が高い水準で発生しています。

銀行口座が凍結される可能性がある

相続が発生したら、資産が凍結されることは定着していますが、認知機能が低下し判断能力がないと判断されると、銀行口座が凍結される可能性があることはご存じでしょうか。

親名義の銀行口座の資産が凍結され、口座から必要資金の引き出しができなくなれば、親の生活費・医療費・介護費などは子どもが立替なければなりません。

相続人の間での揉め事につながる可能性がある

子どもなど相続人が複数いる場合、親が認知症になれば、代表者が財産管理をすることになります。相続人同士のコミュニケーションが不足していると、親の財産を勝手に使い込んでいると勘違いするなど、揉め事が起こる可能性があります。

不動産の売買、相続対策といった法律行為ができなくなる

不動産の売買、生前贈与や遺言作成といった法律行為には本人の「意思表示」が必要になります。認知症になり、判断能力が低下すると、こういった一連の法律行為は一切できません。

どのような対策方法がある?

親が認知症になって判断能力が低下した場合、どのような対策方法があるのでしょうか。ここでは3つの方法をメリット・デメリットの両視点から紹介していきます。

信託銀行が取り扱う金銭信託商品を活用する

信託銀行では、認知症対策の商品が取り扱われています。あらかじめ親が判断能力のある間に、指定の信託口座を開設し、事前に子どもなどを代理人に設定します。その口座の範囲内であれば、代理人が信託口座からお金を出金できる機能の付いた商品となります。

メリットは信託銀行で商品設定の手続きすればいいので、公的な機関への届け出が必要ありません。信託銀行の中には商品の出金操作を指定のアプリでできるところがあります。アプリで出金指示をして、あらかじめ指定した代理人の口座に振込することができるため、わざわざ銀行窓口に行って出金をする必要がありません。

デメリットは、指定の信託口座に入金された金銭を入出金する代理権のみが代理人に与えられている点です。また信託管理料がかかります。2023年7月現在の金利は5年で0.003%となっておりますので、管理料が引かれることで実質的には目減りしていることになります。

家族信託を活用する

家族信託とは、特定の目的に従って自分の保有する不動産や預貯金などの資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。特定の目的とは、生活費・医療費・介護費などの管理や給付などがあげられます。

家族信託のメリットは、契約時点で効力が発生するため、親が元気なうちから財産管理を任せることができることです。さらに遺言代用機能も兼ね備えており、「誰にどのように承継するか」あらかじめ決めることが可能です。親は自分で資産の承継先を決めることができ、承継後どのように使われるのか見届けることができるので、安心につながります。

相続が発生した時も、あらかじめ承継先を決めておくことで、相続手続きもスムーズに進めることが可能です。家族信託は不動産も対象財産とすることができ、不動産が信託されると名義の所有権も意思決定権も財産管理者に移ります。そのため、財産管理者の判断で不動産の管理・運用・処分が可能となり、不動産共有といったトラブルを回避することができます。もし親が認知症になっても、財産管理を継続することができますので、親の資産が凍結して銀行預金が引き出なくなる、ということはありません。

家族信託のデメリットは、親の意思能力がなければ設定することができません。つまり認知症になってからは設定が出来ないという事です。また、財産を管理する人に大きな権限が与えられているため、親は信頼できると思って子どもなどにお願いしたとしても、親の意に反した財産管理をされることもあります。

家族信託の契約にあたって専門家へ相談した場合、コンサルティング費用や契約書作成費用、公正証書作成費用や登録免許税など、各手続において費用がかかります。遺留分を侵害する内容の家族信託契約を結ぶと、遺留分侵害請求をされるといったトラブルに発生するケースもありますので注意が必要です。

成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、認知症を代表とする精神疾患が原因で判断能力が低下した人の財産を保護するために設けられた制度です。家庭裁判所によって成年後見人を選定するのが法定後見、本人が判断能力のあるうちに、自分で後見人を選定するのが任意後見といいます。
ここでは法定後見のメリットとデメリットついてお話していきます。

成年後見制度を利用するメリットは、親の判断能力が低下した後でも後見人の設定をすることができます。また、認知症になった親が単独で行った法律行為の取消権が後見人には認められています。そして後見人は、定期的に財産管理について報告を家庭裁判所にする必要があるため、後見人による不正利用を防ぐことができます。

デメリットは、「本人のため」にしか財産を使えません。そのため株や投資信託などの運用はもちろん、不動産の売却も生活費がないといった必要に迫られたときにしかできません。そして、後見制度の利用申請に費用がかかります。また、必ずしも家族が後見人になれるとは限りません。そして、贈与などの相続対策も「本人のため」ではありませんので、出来ないということになります。

あらかじめ家族で話し合っておくことが大切

子どもが親の財産管理をするときに大切なこと、それは「親の意思を尊重した行動をすること」です。「親の意思を尊重する」ためにも、親の判断能力がしっかりしているうちに、家族みんなが集まるお盆や年末年始のタイミングを活用して、「親の思い」をきちんと子どもたちが理解し、共有しておくことが重要であるといえるでしょう。

その上で、「万が一認知症になった場合はどうするか」についてまで話し合っておけたら、本人や家族の不安度も違ってくるはずです。「認知症とはどのような病気か」「認知症になると何が困るのか」はある程度ご理解いただけたと思うので、紹介した対策方法を基に、ご家族で話し合いの時間を設けてみてはいかがでしょうか。

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