亡き友の思いを背負い戦った明豊ナイン【大分県】

吉川孝成さんの遺影と共に応援した明豊の野球部員=10日、兵庫県西宮市の甲子園球場
好プレーに喜びの声を上げる吉川孝成さんの父・聖哉さん(右)と母・久美さん
吉川孝成さんの遺影
声援を送る明豊高の生徒ら

 「孝成(こうせい)と共に」―。第105回全国高校野球選手権で県代表の明豊は10日、兵庫県西宮市の甲子園球場で北海(南北海道)との1回戦に臨んだ。昨秋に不慮の事故で亡くなったチームメートの思いを背負った特別な夏。熱戦の末に惜しくも敗れたが、ナインは攻守に意地を見せて完全燃焼した。

 吉川孝成さん(享年17)は大阪府羽曳野市出身。明豊OBの今宮健太選手(ソフトバンク)に憧れ、2021年に入学した。ポジションは捕手。甲子園出場を目指し、レベルの高い仲間たちと厳しい練習に励んでいた。

 悲劇が襲ったのは、2年生だった昨年8月下旬。発足したばかりの新チームで、宮崎県内での練習試合に出場した時だった。

 プレー中、相手打者のファウルチップが鎖骨付近に直撃し、病院に運ばれた。意識が戻らないまま、約2カ月半後の11月5日に帰らぬ人となった。元々あった脳の動脈瘤(りゅう)が破裂した可能性があるという。

 チームは亡き球友のために奮起した。大分大会初の3連覇を達成し、甲子園に戻ってきた。

 迎えた二回の攻撃。吉川さんにささげる応援歌が鳴り響いた。大好きだった3人組の音楽グループ「ベリーグッドマン」が作詞作曲したオリジナルソングだ。

 控え部員の遠藤大斗(だいと)さん(3年)が依頼して実現した。「仲が良かったので、自分にできることをしたかった」。大声で歌い上げ、グラウンドの選手を鼓舞した。

 メンバーは強敵相手にもひるまず、一進一退の攻防を繰り広げた。延長戦にもつれ込み、あと一歩及ばなかった。

 アルプススタンドから応援した吉川さんの父・聖哉(せいや)さん(41)は「ここまで連れてきてくれて、感謝しかない」と涙ながらに健闘をたたえた。

 ナインは帽子のつばに「孝成と共に」と書き込み、一丸となってプレーした。試合終了後、泣き崩れた。

 西村元希(げんき)主将(3年)は「力をもらって3安打できた。ありがとうを伝えたい」。

 亡き友と戦った夏が終わった。

 ■明豊スタンド、力強いエール送り続ける

 明豊応援団は生徒や保護者ら約千人が駆け付け、全力プレーを貫いた選手の応援に声をからした。

 三回、柴田廉之助選手(3年)の適時打で先制するとスタンドが沸いた。母・美穂さん(48)=兵庫県加古川市、自営業=は「うれしい。ここまで来たら楽しんでプレーしてほしい」と喜んだ。

 試合は息詰まる熱戦に。「迫力のある踊りで雰囲気をもり立てたい」。チア部の藤田真生(まお)部長(3年)は力強いエールを送り続けた。

 延長戦の末に力尽きたものの、拍手が鳴りやまなかった。岩武茂代校長(65)は「立派なチームに成長した」とねぎらった。

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