現役最古の木造「今津灯台」消灯でしばしお別れ 津波対策で対岸へ移設、来年2月に再点灯へ 兵庫・西宮

移転のため消灯された現役最古の木造灯台「今津灯台」=西宮市今津西浜町(撮影・吉田敦史)

 現役最古の木造灯台で、津波や高潮の対策工事に伴って移設される今津灯台(兵庫県西宮市今津西浜町)が10日夕、消灯された。江戸時代に灘の酒を運ぶ樽廻船(たるかいせん)の安全航行を願って建てられ、200年以上にわたって港を見守ってきた酒どころのシンボル。文化財保護のため解体は最小限に抑え、約160メートル南西の同市今津真砂町の対岸に移す。来年2月に再点灯され、引き続き航路標識として使われる予定だ。(山岸洋介)

 今津灯台は市南部を流れる「新川」の河口にあり、市内の酒造大手「大関」を創業した長部家の5代目長兵衛が1810(文化7)年に建設した。現存するのは58(安政5)年に6代目の文次郎が再建した建物。木造で屋根は銅板、石の基壇を含めた高さは7.5メートルある。

 1968年11月には海上保安庁が航路標識として登録。74年に西宮市の重要有形文化財となり、日本遺産に認定されたストーリー「伊丹諸白(もろはく)と灘の生一本(きいっぽん) 下り酒が生んだ銘醸(めいじょう)地、伊丹と灘五郷」にも含まれている。現在も大関が所有・管理し、近年は発光ダイオード(LED)の鮮やかな緑色の光を放っている。

 工事は南海トラフ巨大地震による津波や、台風の高潮に伴う浸水被害を軽減するため、県が2014年度から実施。新川の水門を下流に移すほか、同じ場所に流れ込む東川と新川それぞれの排水機場を撤去し、新たに統合排水機場や防潮堤を造る。

 工事終了は26年度の予定。今津地区などで最大約420ヘクタールと見込まれている浸水面積が9割減り、排水能力も現2基の合計より2倍に上がるという。

 灯台が現在ある場所には水路ができるため、県が大関に移設を打診。同社も「津波対策のためなら」と応じ、市の許可を得て移設が決まった。今月下旬に木造部をつり上げ、台船で運搬。約150個ある積み石は一つずつ番号を振り、11月初旬まで約2カ月かけて移設先で復元する。

 同社によると、灯台の場所を大きく変えるのは、創建以来初めて。灯台設置の規則に基づき、緑色だった光は移設後、赤になる。10日の消灯式では長部訓子社長が「海路を見守り、地域に愛されてきた灯台。いったん消灯するが、これからも地域の宝物として新たな時代に向けて火を灯(とも)せるよう期待している」とあいさつ。合図とともにスイッチを切ると、海を照らしていた明かりが静かに消えた。

© 株式会社神戸新聞社