マイナ口座、登録したのになぜ給付金受け取れない? 「使い勝手悪くて…」自治体の対応進まず

マイナンバーカードの申請・交付窓口を視察した河野太郎デジタル相(左から3人目)=7月、洲本市役所

 「マイナンバーカードの『公金受取口座』を登録したのに、自治体からの給付金の受け取りに使えないと言われた」-。本紙の電話投稿コーナー「イイミミ」に、神戸市東灘区の80代男性からこんな声が寄せられた。「この給付金ではマイナカードの口座は使っていない」として同市から、通帳のコピーを送るよう指示されたという。マイナンバーと口座情報を連携させ、迅速な給付につなげるのが目的のはずだが一体なぜ?

 男性が受給を予定するのは、非課税世帯が対象の「神戸市暮らし支援臨時特別給付金」。各自治体が昨年度から、国の物価高騰対策費を財源に給付している。

 公金受取口座を使わない理由を同市くらし支援課に尋ねたところ、同給付金の前回給付時の口座情報があり、「それを使う方が早い」と判断したという。ただしイイミミに投稿した男性のように、新たに非課税世帯になった人については口座を把握していない。新規分だけでも公金受取口座を使えば早かったのでは-。

 これに対し、市の担当者は「口座の登録に時間がかかるケースもあると聞き、支給遅れを懸念した」とする。どういうことか。デジタル庁によると、国民が専用サイト「マイナポータル」で公金受取口座の登録を申請後、国側は、申請があった口座が実在するかを銀行などに照会するのだという。金融機関によっては時間がかかるため、神戸市の場合、口座登録の時間差から支給遅れや混乱が起きるのを避けたというわけだ。

 兵庫県内の4中核市(尼崎、西宮、明石、姫路市)に取材しても、同じ給付金で、公金受取口座を活用したのは姫路市のみだった。

 明石市の担当者が挙げたのは、全国で問題となっている個人情報のひも付けミスによる、誤入金のリスク。担当者は「将来的に役立つ仕組みだとは思うが…。今回は通帳のコピーを送ってもらう方が確実と考えた」。尼崎市は「『公金受取口座を登録したのに』という市民の問い合わせは、うちにもあった」と明かす。

 公金受取口座を使う姫路市も誤入金を防ぐため、本人に口座番号を記した確認書類を送ってから給付金を振り込むことにしたといい、「登録されているのは本人口座という前提なので本来確認は必要ないが、今回は慎重を期した」とする。

 ある中核市のマイナンバー推進担当者は「公金受取口座のメリットと、それに伴うリスクや手間がかみ合っていない。正直、自治体にとって使い勝手はあまり良くない」と漏らす。

 8月上旬に公表された「マイナンバー総点検」の中間報告でも、新たな保険証とのひも付けミスなどが多数判明したばかり。本来の目的を達する日はいつになるのか。(井沢泰斗)

【公金受取口座登録制度】 マイナンバーと連携した口座情報を事前に登録し、公的給付金などを受け取る制度。デジタル庁は「申請書への口座情報の記載や通帳の写しの添付、行政による確認作業が不要になる」とメリットを挙げる。しかし、口座に他人の情報がひも付けられ、個人情報を含む口座情報が他人に漏れたり、他人の口座に誤入金されたりする事例が判明した。

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