大徳寺描かれた「かぎたばこ入れ」展示 長崎市歴史民俗資料館 シーボルト発注の可能性も

江戸時代の長崎にあった大徳寺が描かれたとみられるかぎたばこ入れ=長崎市歴史民俗資料館

 長崎市歴史民俗資料館(同市平野町)の永松実学芸員(73)が江戸時代の長崎名所の一つ、大徳寺を描いたとみられる西洋向けの漆工芸品「かぎたばこ入れ」を入手し、同館で開催中のシーボルト来日200周年記念展で3日から展示を始めた。描かれた境内の様子から、江戸時代の出島オランダ商館医シーボルトの日本滞在時期(1823~29年)に長崎で制作された特注品の可能性があり、永松さんは「シーボルトが作らせた物かもしれない」と期待を膨らませている。
 かぎたばこはタバコ葉を細かく砕き、鼻で吸い込んで摂取する無煙たばこの一種で、かぎたばこ入れはタバコ葉を入れる携帯容器。日本では、蒔絵(まきえ)や青貝細工の装飾を施した漆製品のかぎたばこ入れが18世紀から輸出用に制作されていた。シーボルトが29年、長崎の漆工師(職人)に制作を発注した記録もある。
 大徳寺は現在の同市西小島1丁目にあった寺。文政年間(1818~31年)に編さんされた「長崎名勝図絵」は、境内の絵を載せ、風光明媚(めいび)な景勝地と紹介している。明治期に廃寺となり、現在は江戸期から境内に祭られた梅香崎天満宮などが残るだけ。「寺がないのに大徳寺」と長崎七不思議の一つに数えられる。
 永松さんによると、かぎたばこ入れは7月に、古物商から購入。縦8センチ、横13.4センチ、高さ2.4センチの箱で、ふたの表に金蒔絵で寺の境内の絵が描かれている。箱の正面にはオランダ語で「日本の美しい神道の寺」の金文字がある。ふたの裏側にも蘭文が書かれた形跡があるが、削られて内容は分からない。収集家の所有品だったらしいが、詳細な経緯などは不明。
 描かれた境内を長崎名勝図絵の大徳寺の絵と比較すると、本堂(観音堂)などの建物や施設の形状、配置などが酷似。ただ、かぎたばこ入れの絵では、20年に大徳寺本堂の左に建てられた特徴的な屋根の建物「忘言閣(ぼうげんかく)」なども確認でき、長崎名勝図絵より後の様子とみられる。
 シーボルトが日本追放後の32年、オランダで刊行した著書「NIPPON」には、お抱え絵師に描かせた大徳寺境内の絵が収載されており、これには忘言閣も描かれている。永松さんは「かぎたばこ入れの大徳寺はシーボルトがいた頃の様子。描かれた建物が何かということだけでなく、年代まで特定できるのはとても珍しい」と話す。今後、ふたの裏側の蘭文が解読できないかなどを調べる考え。
 同館のシーボルト来日200周年記念展は20日まで。無料。月曜休館。

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