平和公園にて

 きのう、長崎市の平和祈念式典が屋内施設で営まれていたころ、例年の会場である平和公園に筆者はいた。周りの交通規制はなく、大テントは撤去され、人はまばらで、例年の景色とはまるで違った▲変わらない光景も見た。平和公園の真ん中あたりに「長崎の鐘」がある。毎月9日の午前11時2分、被爆者団体が協力して鐘を鳴らす。きのうも鐘の音(ね)が響いた▲いつの間にか二十数人が集まっている。長いひもを引くと鐘が揺れて、カーンと鳴る。その列に被爆者の三田村静子さん(81)がいた。原爆を題材とする紙芝居を長年続けている▲この夏もほとんど毎日、どこかで紙芝居をしてきた。今年の式典では原爆死没者名簿を納めるはずだった。台風接近という事情は分かっていても、参列できず「むなしい」という▲東京都の遠藤大輔さん(47)、浩子さん(48)ご夫妻と子ども3人も鐘を鳴らした。浩子さんは長崎市の出身で、式典にご家族で参列する予定だったらしい。残念でしたが、どうか鐘の音をお忘れなく、いつか式典にご参列を…と願う▲被爆者、ご遺族、県外の人、若い人、子どもが手を合わせ、鐘を鳴らす。少数ながらも、いや、少数だからだろう。雨が降ったりやんだりの公園で、人それぞれの願い、祈り、誓いがひときわ鮮やかに感じられた。(徹)

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