誰なの…? ジュースの注意書きに登場する「私」、本人を直撃

あるトマトジュースが、SNSで突如話題に。一見なんの変哲もないジュースだが、ラベルに「冷やしてお飲みください。私は氷を入れて飲むのが大好きです」と書かれており、あたかも注意書きのように書かれた文章に、「誰なのぉ」「突然の私」「この『私』ってホントに誰なんでしょうねw」などの声が寄せられた。

話題となった『順造選』トマトジュースのラベル。突然の「私」に驚かされる(矢印の部分)

たしかに「私」とは何者なのか・・・。気になって調べてみると、トマトジュースは大阪の企業「マルカイコーポレーション」(大阪市西区)のジュースブランド『順造選』の商品であることが判明。さらに、「私」とは同社の会長をつとめる松順造さん(88)であることもわかった。不思議なラベルの謎に迫るべく、順造さんのもとを訪ねてみた。

会長みずから手がけているラベルの文章

──『順造選』のラベルがSNSで話題となりましたが、反響は大きかったですか?

僕はSNSをやっていないので、社員が教えてくれたことで話題になってることを知りました。正直、なんでこのラベルがそんなに面白いんやろ? と思いました(笑)。

ラベルの文章を手がけた同社の会長・松順造さん

──ご自身はあんまりピンときていないんですね。話題になった文言を含め、ラベルにある文章は順造さんが考えたものなんですか?

その部分もラベルのメッセージも、すべて私が考えました。それと、ラベル表面にある文字も僕の手で書いたものなんです。たしかにこれはちょっと珍しいかもしれないですね。

もともとは専門の方に書いてもらったんですよ。だけど、どの文字を見ても、僕は満足できなくて。力や気持ちがこもっている文字が良い、と思っているうちに、「それならもう、自分が書こか!」となったんです。

──順造さんの自筆だったんですね! 達筆なのでプロの方が書いていたのかと・・・。

昔から、筆で字を書くことを続けてきたので。上手・下手は別にして、「自分の文字」は書けていると思いますよ。

──ブルーベリーやマンゴーなど種類もたくさんありますが、順造さんお気に入りのラベルはありますか?

まぁ、自分で書いたものですからね(笑)。でも、ザクロとクランベリーのラベルは好きです。

■ お客さまに向けた「お便り」のような気持ち

──「女性の方々の間でやっと市民権を得てきました」(ザクロ)、「どこのクランベリー飲料より美味しいと自負する自信作です」(クランベリー)など、順造さんの思いが伝わってくるラベルです。

やっぱり、ジュースはうまいだけじゃダメだと思っていて。この2つは飲んでもらっていろんな効果を体感できるタイプだと思うんです。反響をもらって「うれしいな」と思った気持ちをそのまま書いています。

順造選シリーズ。ベーカリーやスーパー、ホテルの客室などで手に入る

──話題となった「私は氷を入れて飲むのが大好きです」もですが、そもそもそういった率直な気持ちをラベルに綴るようになったのはなぜなんでしょう?

ホンマに、お客さんに向けた「お便り」というか。ほかの会社で発信されている「メッセージ」みたいな大層なものじゃなく、自分が思ったことを書いてるだけです。

──ちなみに、マルカイさんでは「順造選便り」というオリジナルの新聞も発行しているとか。こちらはどういったコンセプトなんですか?

商品を買ってくださっているお客さま向けに情報発信したいという思いから始めました。ラベルと同じで、自分の思いを伝えたい、伝えられる機会を持ちたいと思いまして。毎月出しているんですが、途切れることなく13年間続けています。

顧客に向けて発信している「順造選便り」

──13年も! 裏表でぎっしりと書かれていますが、どういった内容が?

もちろん商品のことや健康に関することも書いていますが・・・。読んだ本やおすすめの音楽のレビュー、巡り合った名言の紹介など、とにかく思いのままに書いています。8月号では先日行った青森旅行のあれこれを「旅日記」として載せていますね。

けっこう、お客さまから人気があるんですよ! 使っている紙も、普通では手に入らない藁半紙調の紙を取り寄せてこだわっています。

──これだけフリーダムな新聞を13年も続けていて、ネタ切れが無いかが気になります。

そりゃもう、何を書いたらいいかなと困るときもあります。だけど僕は、書くことのプロじゃないので「思ったことや経験したことを素直に書く」ということを基本にしています。だから万年筆を持ってさあ書こう、と書き出したらなにかしら浮かんできますね。

88歳まで生きてるわけですから。こういう文章をちょっとぐらい書けなかったら恥ずかしいやないですか。でも88歳でこんなことやってる人もなかなかいないでしょうね(笑)。

ちなみに、ラベルの文章は前身ブランド『順造一選』から30年ほど変えていないとか。「やっぱり、最初の思いが一番大事じゃないですか。そこからちょこちょこ変えるようなことはしたくないなと思っています」と順造さん。こだわりがこもったユニークなラベル、ぜひ確認してみてほしい。

取材・文・写真/つちだ四郎

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