秩父人あるあるを経て…地元飛び出した“祖母の味” ほくほくポテトに甘じょっぱいみその「みそポテト」

「みそポテトは子どもからお年寄りまで親しまれる味」と話す新井真=埼玉県秩父市栃谷

 ジャガイモの天ぷらに、甘じょっぱいみそだれをかけた「みそポテト」。本来は、埼玉県秩父地方で農家が農作業の合間に小腹を満たす「小昼飯(こぢゅうはん)」という軽食の一つだった。

 秩父商工会議所の木村悠一(45)は、秩父市内の祖母の家に遊びに行くと、みそポテトが出されたという。自家用の畑で栽培したジャガイモ、みそだれも手作り。「みそポテトというと“祖母の味”。以前はお店で買うという感じはなかった」と話す。

 ありふれた存在のため見過ごされがちだった、みそポテトだが、ご当地グルメブームによって“再発見”される。2007年度に秩父商議所が「小昼飯プロジェクト」を展開し、イベントなどを行った。09年に秩父市で開催された「第5回埼玉B級ご当地グルメ王決定戦」で、みそポテトがグランプリを獲得し、知名度が一気にアップした。

 この時、グランプリに輝いたのが、秩父市栃谷の「みそポテト本舗」のみそポテトだ。同社の前身は精肉店。1977年に前社長の新井広幸(73)が総菜部門を新設し、みそポテトの販売を始めた。冷凍食品化し、スーパーマーケットや道の駅などに納品。納品先で調理をしてもらうかたちで、販路を拡大していく。グランプリの獲得を機に、商品をみそポテト1本に絞り、現在の社名へと変更した。

 秩父では当たり前にある料理なのに、秩父の外では知られていない。進学や就職で都内に出て、このことに初めて気付く人も少なくない。「それって“秩父人あるある”ですよね」。広幸の息子で現社長の真(36)はいう。

 「父はこのおいしさを秩父の外にも広めたいと思っていたし、私も同じ思い」。真も都内で会社員をしていた時代、実家から冷凍みそポテトを取り寄せ、知人たちに食べさせていたという。

 みそポテトはもともと家庭料理だけに、家や店ごとにレシピは違う。同社では、ほくほく食感の男爵いもをふかしてから天ぷらにする。みそだれは白みそをベースに砂糖、隠し味に唐がらし。広幸が考えたレシピで、少し癖になる甘みが特徴だ。

 それが冷凍食品となり、秩父の観光施設などで秩父土産として販売されている。また、秩父以外のスーパーマーケットでも店頭に並ぶようになり、手軽に家庭で食べられるようになった。「最近は都内のイベントに出店すると『あっ、みそポテトだ』と言われることもある」と真は言う。地域限定だった味は秩父の内外にファンを広げている。(敬称略)

■農家の軽食「小昼飯」

 みそポテトは小昼飯と呼ばれる郷土料理の一つ。春分の日を過ぎて日が長くなると、労働時間も長くなる。農家では午後3時の休憩で小昼飯を食べて小腹を満たした。

 長瀞町在住の民俗学研究者、栃原嗣雄(86)の家はかつて養蚕農家だった。子どもの頃仕事を手伝い、よく食べた小昼飯は「たらし焼き」。ネギが入った薄いお好み焼きのようなものだ。前日に残ったご飯で「めしもち」も作った。手近な食材で簡単に、腹持ちの良い料理が好まれた。ただ、みそポテトは当時あまり食べた記憶がないという。昭和20年代ごろまで砂糖は貴重品。甘いみそだれのみそポテトは、小昼飯の中でも比較的新しい存在らしい。

 秩父商議所では秩父の食文化を通じて活性化を図ろうと、2007年度から「小昼飯プロジェクト」を開始。みそポテトなど小昼飯の取り扱い店を募集し、審査を経て登録された約50店舗を掲載したマップを配布している。

 また、15年に誕生した秩父市のイメージキャラクター「ポテくまくん」は、みそポテトが大好きな熊の妖精。X(旧ツイッター)のフォロワー数は2万2千以上といい、「ポテくまくんのツイートを見て『みそポテトを食べてみた』とつぶやく人もいる」(秩父市広報広聴課)という。

みそポテトが好物の「ポテくまくん」。2017年ゆるキャラグランプリで12位となった(秩父市広報広聴課提供)

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