セラピー犬による自閉症スペクトラムやダウン症の子どもへの生理学的影響

自閉所スペクトラム症やダウン症の子どもへのセラピードッグの効果を測定

セラピードッグがさまざまな年齢層の人々のストレスレベルを低下させることは、数多くの研究によって証明されており、実際に活躍している犬たちもたくさんいます。

また犬と暮らしている子どもは、不安やストレスが少ないことも研究によってわかっています。犬と子どものストレス減少についての研究は、ほとんどが家庭犬を対象にしています。

このように犬との暮らしや、セラピードッグの効果についての研究は数多く行われているのですが、犬と行う動物介在療法がダウン症候群や、自閉症スペクトラム症の子どもに与える影響を生理学的に測定したものはありませんでした。

このたびオランダのエレス応用科学大学、ティルブルフ大学、オランダ公開大学、フローニンゲン大学の研究チームが、自閉症スペクトラム症やダウン症候群の子どもへの犬介在療法の効果を、生理学的に検証した結果を発表しました。

週1回合計6回の犬介在療法に参加した20人の子どもたち

自閉症スペクトラム症やダウン症候群の子どもは、社会的な関わり合いや気持ちの言語化が難しいため、ストレスを経験することが多くなります。ストレスや恐怖から来る二次的な障害を予防するためにも、ストレスをコントロールすることは重要です。

研究チームは「セラピードッグと行なう犬介在療法が、自閉症スペクトラム症やダウン症候群の子どものストレスを低下させる」という仮説を立て、セッションを受けた子どもたちの生理学的な数値の測定を行いました。

この研究に参加した子どもは、ダウン症候群8名(男子6名、女子2名、年齢10〜14歳)、自閉症スペクトラム症12名(男子8名、女子4名、年齢11〜15歳)でした。彼らは全員が特別支援学級で教育を受けています。

参加者は30分間の犬介在療法のセッションを週1回合計6回受けました。子どもたちにはセラピストが付き添い、セラピードッグには認定を受けたハンドラーが同行しました。6回のセッションは、全て同じ犬と同じ子どもの組み合わせで行われました。

犬とのセッション内容の例は、子どもが障害物コースを作って犬を誘導する、犬といっしょにマットの上に座ったり寝転がる、スラローム歩行やバーを飛び越えるなどの行動を犬にキューを出して実行させるなどでした。

毎回のセッションを始める前と終わった後に、参加者の心拍変動と唾液中のコルチゾール値が測定されました。

心拍変動とは心拍が持つ独特の揺らぎのことを指します。一般に心拍変動が大きいことは、体がさまざまな変化に適応していることを示します。ストレス反応時は一時的に心拍変動が小さくなります。

コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンで、抗ストレスホルモンとも呼ばれます。ストレスを感じると分泌量が増加します。

犬介在療法を受けた直後の心拍変動とコルチゾール値

測定された心拍変動とコルチゾール値は、どちらもセッションの後では低下していました。これは生理学的に反対のことを意味します。

セッションの後に心拍変動が低下したということは、子どもたちはセッション中にストレスを感じて緊張していたのでしょうか?

研究者はこの点について、セッション中に子どもたちの運動量が増加したことで、心拍数が増加したためだという可能性を指摘。心拍数が上昇すると心拍変動が低下することはよく知られています。

セッションの後にコルチゾール値が低下していたことは、子どもたちがセッションによってリラックスし、ストレスレベルが低下したことを示しています。

この結果からは、運動を伴う犬介在療法の効果測定には、心拍変動よりもコルチゾール値の方が信頼できる可能性が伺えます。

1回1回のセッションでは、犬との触れ合いの後にストレスレベルが低下していたことが示されましたが、6週間を通しての数値では大きな変化は見られませんでした。これは研究者の予想を裏切る結果でもあったようです。

過去の研究で示された、犬を飼っている家庭の子どもはコルチゾール値の平均レベルが低いという結果から考えると、週1回のセッションでは長期的なストレス低下には、効果が弱かった可能性があります。

今後は参加者の人数を増やし、犬介在療法の期間をより長いものにしての研究を継続する可能性や、セッションに参加した子どもの保護者へのアンケートなども活用することを研究者は言及しています。

まとめ

犬介在療法に参加した自閉症スペクトラム症とダウン症候群の子ども20人を対象に、ストレスレベルの指標となる心拍変動とコルチゾール値の測定を行なったところ、セッションの後にコルチゾール値が低下していたが、長期的には大きな変化が見られなかったという調査結果をご紹介しました。

この研究は始まったばかりなので、この結果だけで自閉症スペクトラム症やダウンシンドロームの子どもに、犬介在療法の効果が小さいという結論を出すことはできません。今後さらに研究が進められていくことが期待されます。

《参考URL》
https://doi.org/10.3390/children10071200

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