まちづくりに“町外”の視点、「強み」掘り起こしへ 早稲田大と兵庫・上郡町が協定

住民とのグループワークの前に、町内を見学して回った佐藤教授とゼミ生ら(上郡町提供)

 人口減少が続く兵庫県上郡町で、新たなまちづくりの動きが広がっている。呼びかけ人は、早稲田大学の佐藤将之教授(48)。この春、町内に地域住民との連携拠点を開設したほか、町で実現したいことを話し合う「上郡未来セッション」も住民らと立ち上げた。豊かな自然に恵まれながらも過疎化が進む町で新しい風が吹き始めている。(地道優樹)

■町営住宅にラボ、地域と連携

 佐藤教授は普段、早稲田大の学部や大学院、総合研究センターからなる人間科学学術院の教壇に立ち、全国各地の住民によるまちづくりを研究している。

 同町と同学術院は、梅田修作町長が町議時代に学部の通信教育課程で学んでいたことをきっかけに、昨年6月、まちづくりや教育分野での連携協定を締結。佐藤教授が梅田町長の指導教員だったことなどが縁で、同町でのまちづくりに携わることになった。

 今年4月には、JR上郡駅近くの町営住宅を改装し、活動拠点となる「ラボ」を開設。大学のキャンパスがある埼玉県所沢市から、月1回のペースで同町を訪れている。ラボでの具体的な活動はこれからだが、地域住民が気軽に立ち寄れるような場所にしたいという。

 同5月に上郡町上郡の「ギャラリーひがし蔵」で開催した講演会では、全国で成功しているまちづくりの共通点などを紹介。地元の自治会役員や農家、高校生ら約50人を前に「まちづくりでは一時的に人が集まるにぎわいを目指すのではなく、さまざまな世代の人たちが思い思いに過ごせる場をつくることが重要だ」と熱っぽく語った。

 その後、佐藤教授のゼミ生を交え、上郡でやってみたいことをテーマにしたグループワークも実施。「千種川でアユのつかみ取りを再開したい」「川魚だけの水族館があったら」など自由な意見が出された。

 こうした住民らの要望の実現に向けて話し合う「上郡未来セッション」も設立。企画した町地域おこし協力隊の野邉友紀さん(25)や町内外の有志が月1回程度集まり、佐藤教授と一緒に今後の活動方針などについて話し合っている。

 同6月の会合には会社員や農家、町職員ら13人が参加。「祭り」や「婚活」、「宿泊」といったテーマごとにグループをつくり、活動を進める案が示された。

 佐藤教授は「町外からの視点で見ると、同じ場所や物でも違った価値が出てくることがある。町内に眠る資源を掘り起こし、情報を共有していくことが大切だ」と助言した。

 8月21日に開く第4回会合のテーマは「上郡にどんな役割を持った居場所をつくるか」。ラボのリノベーションについても話し合うという。参加者を募集している。要予約。問い合わせは野邉さんTEL070.8379.5459

■地域存続の鍵は… 出会い生かし、新ビジネス創出を

 早稲田大学の佐藤将之教授が地域存続の鍵になると考えているのが、個人による新しいビジネスの創出だ。全国のまちづくりの成功事例を分析すると、その地域では幅広い年代や肩書の人らが交流し、次々とビジネスが生まれる好循環が起こっているという。

 例えば東京都西東京市の商店街にある駄菓子店「ヤギサワベース」。店内にフリースペースがあり、日中は子どもの遊び場だが、夜は商店街の大人たちでにぎわう。店主の中村晋也(48)さんの本業はデザイナーで、駄菓子店は副業として始めたが、それが新しい出会いにつながり、デザインの仕事も増えたという。

 福岡市中央区の「いふくまち保育園」は、隣接する公園を園庭として利用する。市の制度を活用して管理者となり、公園では定期的に住民向けのマルシェイベントなども開催。地元自治会との関係も深まり、近くの空き物件を紹介してもらうなどし、2カ所目の保育園開設につながったという。

 「活発な地域ほど人と人との出会いが多い」と佐藤教授。「重要なのはまちづくりの担い手を育てることではなく、偶然の幸運な出会いをいかに起こすか。上郡でもその一助になりたい」と力を込めた。

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