とうとうリーガが始まった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:Getty Images]

「勝っていても、最後の最後までゴールを求めるに越したことはないってことね」そんな風に私が頷いていたのは火曜日、リーガ23-24シーズン開幕節が終わり、今季初の順位表でアトレティコが堂々、首位に君臨しているのを見た時のことでした。いやあ、白星スタートしたチームはお隣さんや弟分のラージョを含め、他にも5チームあったんですけどね。3点取ったのがアトレティコだけだったからという儚い地位ですが、それも前夜午後11時半近く、後半ロスタイム最後の8分にダメ押しゴールを奪ったおかげともなると、連日の猛暑の中、そんな遅い時間まで、選手たちがやる気を維持できたことだけでも褒めるに値する?

いえ、話は順番にしていきましょうか。先週末は金曜に開幕戦一番乗りとなったラージョがアルメリアにPK2本で0-2とアウェイ勝利を挙げた後、いよいよ土曜にはレアル・マドリーが発進。こちらもサン・マメスでのアスレティック戦だったため、いつも行くバル(スペインの喫茶店兼バー)がバケーション中だった私も試合を見られるお店を探して、少し遠出することになったんですが、同じ思いで辿り着いたファンも多かったよう。あとちょっと遅かったら、立ち見になるところでしたが、モドリッチ、クロース抜きの若手で構成された中盤で始まってから、しばらくは6月のネーションズリーグ・ファイナルフォーで優勝したスペイン代表の正GKウナイ・シモンに好セーブを披露されてばかりに。

まだプレシーズンの撃っても撃っても入らない症候群が抜けていないのかと心配になったんですが、大丈夫。28分には1本目のシュートを弾かれていたロドリゴがカルバハルと、「una jugada que hemos practicado en los entrenamientos/ウナ・フガダ・ケ・エモス・プラクティカンドー・エン・ロス・エントレナミエントス(練習でやっているプレー)」を成功させたんですよ。そう、エリア外右側でロドリゴがカルバハルに送り、ナチョがベンチスタートだったため、キャプテンマークを巻いた右SBがエリア内で折り返し。敵DFに囲まれながら、ロドリゴがシュートしたボールが誰にも当たらず、ネットに収まってくれたから、どんなに店内が沸いたことか。

そして36分、次に魅せてくれたのは弱冠20才ながら、移籍金1億ユーロ(約160億円)越えの大型新人ベリンガム(ドルトムントから移籍)で、アラバがCKを蹴る時、人込みを避けて、ゴールから少し離れた位置にいた彼がvolea(ボレア/ボレーシュート)。当人も後で「上手く蹴れなかったけど、ちょっとラッキーなリバウンドをしてくれた」と認めていた通り、何か変な撃ち方だったため、ゴールの対角線上の隅にボールがすっぽり入ったのには、狐に化かされたような気がしたんですけどね。そこは、「Bellinhgam es un fuera de serie/ベリンガム・エス・ウン・フエラ・デ・セリエ(ベリンガムは規格外)」とアンチェロッティ監督も手放しで褒める程、サッカーに不可欠な運も兼ね備えた逸材。公式戦デビューで初ゴールとはやってくれるじゃないですか。

これで0-2としたマドリーだったんですが、後半2分には予期せぬ逆境が発生して、うーん、もしや前半終盤、シュートした直後のウナイ・ゴメスをラフなタックルで倒しながら、ペナルティを取られなかったことで運を使い果たしてしまったんでしょうかね。3人の交代選手の1人だったサンセットを追った拍子にミリトンが負傷。即座にリュデイガーと代わったんですが、これがアンチェロッティ監督も「Es un esguince de rodilla no tiene buen pinta/エス・ウン・エスギンセ・デ・ロデイージャ・ノー・ティエネ・ブエナ・ピンタ(ヒザを捻ったんだが、いい感じはしない)」と言っていた通り、翌日には靭帯断裂だったことが判明します。そう、木曜にGKクルトワを同じケガで失ったマドリーは、その2日後にレギュラーCBの1人も6~8カ月間、失うことになったんですよ。

ちなみに試合はその後、ボールロストが酷かったアスレティックがやや持ち直したものの、GKルニンを脅かすには至らず。マドリーもビニシウスがまるで昨季より前の彼に戻ってしまったかのように、何度もシュートする前にボールを敵に奪われていましたからね。クロース、モドリッチ、ホセル(エスパニョールからレンタル)が入り、中盤ひし形の4-4-2から、4-4-1-1にシステマを変えた後も追加点は入らなかったため、そのまま0-2で終了。一応、プレシーズンの大ザル状態はかなり改善されていたようですが、やはり深刻なのは守備の要が2人も今季はほぼ絶望となってしまったことでしょうか。

ただ、GKに関しては、この日のルニンはソツなく仕事をこなしていたものの、月曜にはウナイ・シモンが負傷中だった3月、スペイン代表戦2試合でGKを務めたケパがバイエルン行きをキャンセルして、チェルシーから1年レンタル移籍で来ることが決定。早速、火曜にはバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場施設でプレゼンされていたのとは違い、CBの方は、昨季の第4CBバジェホはグラナダに行ってしまいましたが、ナチョもいますし、当面は補強をせずに様子を見るよう。まだ移籍市場は開いているため、その辺は8月中のアルメリア、セルタ戦の後に考えればいい?

そして翌日曜には私もバル観戦から解放され、ヘタフェの開幕戦に立ち会うため、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに向かったんですが、これがまた、1週間前のプレシーズン最後の試合だったフィテッセ戦とは観客の数が段違い。相手がバルサということで、アスルグラナ(青と紫がかった赤のストライプ)のユニを着た外国人ファンもチラホラいましたが、スタンドの大半はヘタフェファンで埋め尽くされていたのにはホッとできたかと。ただねえ、先週木曜には錬金術のようなplanca(パランカ/資金調達のこと)が成立し、ギュンドガン(マンチェスター・シティと契約終了)やオリオル・ロメウ(ジローナから移籍)ら、主力選手のリーガ登録を達成。スタメンに並べてきたチャビ監督のチームとの試合の中身はというと…。

まさにボルダラス監督流炸裂です。もちろん、キックオフと同時に「Bordalas te quiero/ボルダラス・テ・キエロ(ボルダラス監督、愛している)」と歌い出したファンもそれを期待していたんでしょうが、ピッチには序盤から倒れている選手が散見。そんなヘタフェがようやく初シュートを撃てたのは29分になってからのことで、それまでにGKダビド・ソリアはバルサの得点を3度防いでいたんですが、35分、ラフィーニャのシュートを弾いたボールがミトロビッチに当たり、ゴールポストのおかげで難を逃れた際には本当にドッキリさせられましたっけ。でもねえ、まさか度重なるヘタフェ勢のファールにイラついて、41分にはそのラフィーニャがガストンの顔にcodazo(コダソ/肘打ち)を見舞い、レッドカードで退場してしまうとは!

そんな騒動もあったため、今季はより厳格になった審判の基準により、前半のロスタイムが10分もあったのには、驚かないファンはいなかったかと。後半のヘタフェは脛骨を痛めたミトロビッチがポルトゥと代わり、1人少なくなったバルサはCBクリステンセンをサイドアタッカーのアブデ(昨季はオサスナにレンタル)に代えて、デ・ヨングをCBに回してスタート。ただ、残念ことに数的優勢だったヘタフェは9分、マタが2枚目のイエローカードをもらったため、フィテッセ戦同様、10対10になっちゃったんですけどね。その試合で4-1と逆転勝ちしたのに味をしめたか、この日も16分にはラタサとアレニャをマジョラルとロサーノ(カディスとの契約終了)に代え、ゴールを目指したボルダラス監督のチームだったんですが、まさか次はチャビ監督が退場するとはねえ。

それは34分、後半の脅威になっていたアブデをジェネがエリアすぐ前で猛タックルして止めながら、カードが出なかったことにチャビ監督が抗議。当人によると、「Le he dicho que estaban permitiendo muchas faltas y a nosotros, no/レ・エ・ディッチョー・ケ・エスタバン・ペルミティエンドー・ムーチャス・ファルタス・イ・ア・ノソトロス、ノー(相手のファールは沢山見逃して、ウチの方は取ると言った)」せいで、主審にベンチを追い出されたんですが、何せ今のヘタフェはエースのエネス・ウナルがヒザの靭帯断裂で長期リハビリ中、パルコ(貴賓席)観戦していることはともかく、ルイス・ミジャとアランバリも負傷中。期待のアルティミラ(サダベルと契約終了)もベティスに取られてしまい、絶対的にMFが足りていませんからね。

バルサが16才のジャマル、18才のガビ、20才のアンス・ファティを投入してくるなら、ヘタフェもDFアンゲレリと控えGK以外、唯一、ベンチにいたカンテラーノ(ユースチームの選手)のゴルカ18才、サンティ21才を入れても良かったんじゃないかと思いますが、ボルダラス流のハードな戦いにはまだ青いと見なされたか、それ以上の交代はなし。そのまま0-0で再び、9分とロング表示されたロスタイムに入ったところ、56分にはイグレシアスがエリア内でアラウホを蹴り、ペナルティ疑惑をかけられてしまったから、さあ大変!延々とかかるVAR(ビデオ審判)通信を経て、とうとう主審がモニターを見に走り出した時は私もドキドキしたんですが、セーフです。イグレシアがアラウホを蹴る前に落ちて来たボールをガビと争い、その時、相手の腕にボールが当たったとして、ハンドを取ってくれるとは、こんな有難いジャッジ、滅多にないのでは?

おかげで昨季4月の対戦同様、スコアレスドローでバルサから勝ち点1をもぎ取ったヘタフェだったんですが、私は終電が迫っていたため、いられなかった記者会見では審判とボルダラス流サッカーにチャビ監督が文句を言いまくり。それに「自分には敗戦や引分けを相手のサッカースタイルのせいにするなんて思いつきもしない。Es una falta de respeto/エス・ウナ・ファルタ・デ・レスペト(リスペクトを欠く行為だ)」とボルダラス監督も反撃し、更に無失点を死守したダビド・ソリアも「昨季は太陽と芝のせいで、今季は審判。Siempre tienen una excusa/シエンプレ・ティエネン・ウナ・エクスクーサ(いつも言い訳している)」とここ、4試合連続、コリセウウで勝利していないバルサを皮肉るなんてこともあったんですが、この少ない選手数ではヘタフェにできることが限られているのも確か。とにかく8月が終わる前に、招集リスト23人を埋められる程度には頭数を増やしてもらいたいものです。

一方、1節のトリとして、月曜午後9時30分からシビタス・メトロポリターノに1部最短Uターンを果たしたグラナダを迎えたアトレティコはどうしたかというと。いやあ、ラインアップ紹介のアナウンス時、ジョアン・フェリックスにpito(ピト/ブーイング)の嵐が注ぐのは織り込み済みだったんですが、開始4分、グリーズマンのラストパスを受けたモラタがシュートをGKフェレイラに弾かれた上、ボールが自分の身体に当たって外に出ると言う不運をスタンドのファンが嘆いている脇でコケが負傷。早々にバリオスと交代となったんですが、フェレイラに突き飛ばされたモラタがペナルティをもらえず、すれ違う時に敵DFの頭を叩いて憂さを晴らしていたり、カラスコやデ・パウルのクロスをヘッドできなかったのはそれとはまったく無関係だったかと。

お水休憩の後もモラタはジョレンテのクロスを手で打ってイエローカードをもらうなど、1人で騒いでいたんですが、ロスタイム4分にはとうとう、アスピリクエタのロングクロスをバジェホがエリア内で肩に当てて落としてくれたボールをシュート。当人は定番のオフサイドの位置にいたものの、何故かVARもOKを出したため、アトレティコは先制点をゲットすることに。いえ、その1分後の彼のヘッドもゴールに入ったんですけどね。この時はジョレンテのオフサイドでノーゴールとなったため、シメオネ監督の出した課題のシーズン得点数まで、あと16に出来なかったのは非常に悔いが残る?

後半はグラナダも積極的になってきて、再開1分から、カンテラーノのサムのヘッドで首椎間板ヘルヒアから復帰したGKオブラクを脅かしていたんですけどね。17分にはモラタ、レマルがメンフィス・デパイ、ソユンチュに代わった時、一緒に入った昨季後半、ローマからのレンタルでヘタフェにいたゴンサロ・ビジャルがカラスコから敵陣エリア付近でボールを奪い、そのラストパスを今度はサムに同点ゴールにされてしまったのは頂けませんが、大丈夫。その5分後、デパイがエリア外から弾丸シュートでgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を突き刺し、場内を茫然とさせているんですから、やっぱりこのFW、ケガさえしなければ、頼りになりますって。

そしてこちらも8分と長く出た後半ロスタイム、最後の最後にグラナダのスローインをジョレンテが奪い、コレアにパス。毎シーズン、控えからスタートする彼が敵をかき分けてエリア内に入った後、ボールを逃してしまったものの、後ろから駆けつけたジョレンテが引き継いで、3点目のゴールを挙げてくれたとなれば、ファンもスタジアムに来た甲斐があったというものです。いえまあ、3-1で試合が終わった後、出場しなかった他の控え選手と一緒にピッチでランニングする予定だったジョアンが再び、ブーイングを受けて、スタンドが空になるまで、ロッカールームで待機しないといけなかったなんてこともあったんですけどね。

こちらはもっと遅くまで終電があるため、シメオネ監督の記者会見を聞いていたところ、「ジョアンは何が必要とされ、要求されているか知っている。モラタ、メンフィス、グリーズマン、コレアと競わないといけない。Si está mejor que ellos, jugará/シー・エスタ・メホール・ケ・エジョス、フガラ(彼らより良ければ、プレーするだろう)」と言っていたんですが、とにかく一番恐れていたコケの負傷でボランチの補強ができたらから、マストになってしまったのが大問題。モウリーニョ(ラシンクラブ・デ・モンテビデオから移籍)がサラゴサにレンタル修行に行って、リケルメ(昨季はジローナにレンタル)が25番を着けられるようになったものの、トップチームの登録選手が25人いるアトレティコは誰か出さない限り、もう選手が獲れませんからね。やっぱり最後はこの日は出場停止だったビッツェル、そしてバリオスで賄う、シメオネ監督のプランBに進むんでしょうか。

そして火曜には女子W杯準決勝でスペイン代表が残り10分から、サルマ(バルサ)の先制点を挙げ、それをボロンクビスト(ボルフスブルク)の同点ゴールで帳消しにされながら、オルガ・カルモナ(マドリー)が後半44分にエリア前から叩き込んで2-1でスウェーデンに勝利。水曜の準決勝で対戦するイングランドvsオーストラリア戦の勝者と日曜に初の決勝を戦うという楽しみを与えてくれたんですが、今週は水曜にもマンチェスター・シティとセビージャがアテネで激突するUEFAスーパーカップもありますからね。他のクラブは週末のリーガ戦まで間が空きますが、とりあえず、マドリッド勢が皆、ポジティブなスタートを切れたのは嬉しいですね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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