【韓国】好況も人材難、苦境の製造業[製造] 拠点の首都圏新設などで対応

製造業の業況が回復しているにもかかわらず、韓国の製造各社が人材難に悩まされていることが分かった。製造業者の多くは韓国南部の地方に本拠を構えるが、20~30代の若者で地方勤務を嫌う傾向が強まっていることも一因とみられる。このため各社は、首都圏に研究開発(R&D)センターを設けるなどの対策を進めている。

韓国の主要製造業者がそれぞれ公表した今年4~6月期の事業報告書によると、多くの業者で従業員数が減少した。鉄鋼最大手のポスコの6月末時点の従業員数は1万6,589人と、2022年末に比べて518人減った。造船大手のHD現代重工業は197人、サムスン重工業は55人、それぞれ減少した。

近年の鉄鋼・造船業界が回復傾向にある点を考慮すると、各社の人員が減少している状況は好ましくないとの見方が強い。

例えば、世界鉄鋼協会(WSA)は今年4月、新型コロナウイルス感染症の収束に伴う経済活動の再開で23年の世界の鋼材需要が前年比2.3%増の18億2,230万トン、24年は1.7%増の18億5,400万トンになると予想した。需要増に対応するための人材確保は、ポスコにとって重要な課題の1つだ。鞍鋼集団や江蘇沙鋼といった競合の中国メーカーにシェアを奪われかねない。

造船業も業況は回復傾向にある。市場調査会社モルドールインテリジェンスによると、23年の造船市場規模は1,456億7,000万米ドル(約21兆1,800億円)と予想され、28年まで年平均4.84%の成長が見込まれている。HD現代重工業もこの流れに乗って受注規模を拡大しており、6月末時点で年間目標の64%を達成した。しかし、造船業者が人材難を解消できなければ、受注分を十分に消化できない恐れがある。

韓国造船海洋プラント協会は昨年、14年時点では20万3,441人いた造船業の在職者が22年9月時点で9万3,038人に半減したことから、「韓国の造船業は危機的な状況にある」と指摘した。韓国政府は、23年末までに造船業界だけで約1万4,000人の人材が不足すると試算している。

■若者の地方勤務回避があだに

鉄鋼業や造船業の人材難の一因として挙げられているのが、若者の「地方勤務嫌い」だ。韓国ではもともと生産職を避ける求職者が多かったが、MZ世代(1990~2000年代生まれ)と呼ばれる若者はソウル市や首都圏での勤務を好む傾向が強い。ポスコは南東部の慶尚北道浦項市や南西部の全羅南道光陽市に主力事業場があり、HD現代重工業やサムスン重工業も慶尚南道など南部に造船所を構える。

加えて、こうした「地方嫌い」は製造業全体の問題としても浮上している。南東部の蔚山市に本拠を置く完成車大手の現代自動車は、従業員数が昨年末の6万4,840人から今年6月末までの半年で1,820人減少した。斗山グループでエネルギー事業を手がける斗山エナビリティー(旧斗山重工業)はこのほど、約5年ぶりに原子力発電所の新設事業を受注するなどエネルギー事業拡大を目指しているが、従業員の減少が止まらず、新たな人材確保が喫緊の課題に挙がっている。

■首都圏に拠点新設で対応も

このため製造各社は、苦肉の策として首都圏に設計やR&Dの拠点を立ち上げるなどして人材確保を図っている。

HD現代重工業の親会社であるHD現代は、22年末に本社を京畿道城南市の板橋に新設したことを機にソウル市や蔚山市、全南道などに散らばっていたR&D人員を板橋に集約した。現代製鉄はソウル市など各地に点在していた事務所を今年1月に板橋にまとめた。ポスコも、グループのR&Dセンターの役割を担う未来技術研究院の一部組織を首都圏に移す案を検討中だという。

各社はコロナ禍で停滞していた雇用活動を再開し、将来の成長に備えるための人材確保にも積極的に乗り出す構えだ。

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