SF23は“ピーク”を出せ! ローソン陣営が得たハード&ソフト両面の進化と、終盤戦の“心配”

 リアム・ローソン(TEAM MUGEN)が優勝を飾った全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦富士。表彰台の下では、安堵の表情を浮かべながらローソンを祝福する小池智彦エンジニアの姿があった。

 ルーキーのローソンはこれが今季3勝目。ランキングリーダーの宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)に1ポイント差に迫り、残り3戦となったタイトル争いは、ふたりの一騎打ちの様相を呈してきた。

■2日間のテストに「5日分のアイテム」持ち込む

 富士は第1・2戦に続いて今季2度目の開催となったが、ローソンの15号車のセットアップは、開幕ラウンドとは異なるものになっていた。彼らは第5戦SUGOまでは昨年の笹原右京のセットアップをベースに置いていたが、SUGO翌週の富士テストで転機が訪れていたのだ。そこでは、予選でのポテンシャル向上に主眼を置き、多くのセットアップアイテムの評価を進めたという。

 その経緯について、小池エンジニアは次のように説明する。

「リアムに合わせたというのもありますけど、SF23により合わせていきました。いままでのラウンドを見ていると、37号車(宮田陣営)がアタマひとつ抜けている印象があります。我々もアベレージとしては高かったと思いますが、ピークがないと予選では前に行けません」

 ローソンはもともとドライビングの幅が広く、ある程度どんな性格のマシンでも乗りこなしてしまう。しかし、それではSF23の特性の“ピーク”を出し切る方向には行けない。「いまのクルマは、トガッたところでタイムを出さなければいけません。そこに合わせられるようなアイテムをいくつか用意して、コンディションなどに合わせて選択できるようにしました」。

リアム・ローソン(TEAM MUGEN)と小池智彦エンジニア

 今季は新型車両導入イヤーではあるものの、開幕前のテストは鈴鹿での2日間のみ。各陣営はシーズンを戦いながらSF23を理解し、煮詰めていく作業を強いられたが、それは開幕戦ウイナーの15号車も同じ。たが、レースウイークのプラクティスでは「やれても2〜3アイテムしか試せませんし、確実に『これがいい』とならないと採用できない」(小池エンジニア)状態が続いてきていた。

 とくにローソンはレースウイークの限られた時間のなかで日本のサーキットの習熟も進めなければならず、パフォーマンスを根本から改善するようなアイテムやアイデアを試す場としては、6月の富士テストが“待望の舞台”だった。

 小池エンジニアは、「5日間くらいテストができそうな量」のアイテムを富士テストに向けて準備したという。テストではそのアイテムを、ローソンが次々と評価していった。

「彼はF3、F2などでは『これに乗って』と言われて、ほとんどセットアップを知らされないでやってきていていますから、テストアイテムを評価するというのは、F1のシミュレーターを除けば初めての体験だったと思います。いいトレーニングというか、ジャッジをしっかりできるようになってきましたね。これまでは何に乗っても『まぁ速く走れるから、いいか』みたいな反応でしたが(笑)、最近は『これは良い。これは良くない』とはっきり言ってくれるようになってきました」

 第6戦予選では、結果的にポールポジションを牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に奪われたものの、ローソンは2番手につけることができた。小池エンジニアによれば、予選でのクルマの仕上がりは「完璧ではなかった」というが、「今季一番のアタック」だったローソンのドライビング、そして「Q1からQ2にかけて、ちょっとトリッキーなことを試してみよう、と攻めた」ことが、予選上位獲得につながったという。

 予選後、ローソンは富士テストの成果について「シークレット(笑)」と含みを持たせていた。マシンのセットアップというハードの面でも、ローソンのアイテム評価というソフトの面でも、2日間のテストが15号車陣営にとってひとつのターニングポイントになったとみて間違いなさそうだ。また、決勝でのローソンが盤石の戦いぶりを見せたこともあり、15号車陣営としては第6戦のクルマにはある程度満足ができているようだ。

■浮かび上がるチームの“個性”

 なお、富士ではセクター3の速さが光ったTEAM MUGEN勢だったが、これについて小池エンジニアは他チームも引き合いに出しながら、マシンの“個性”を次のように分析している。

「(ポールを獲った)ダンデライアンさんのクルマが、セクター2が速いのは分かっていました。これはもう、クルマ(チーム)が持っている特徴のようなものだと思いますが、TEAM MUGENのクルマはセクター2を取りにいくとセクター3が全然走らないので、富士は基本的にセクター3をすごく重視しています。ダンデさんのクルマがすごいのは、ストレート(スピード)も取りながら、セクター2も速いところです。メカニカル的に、何かがあるんでしょうね。ウチもいろいろトライしていますが、なかなか難しいです」

2023スーパーフォーミュラ第6戦富士 リアム・ローソン(TEAM MUGEN)

 2023年のタイトル争いは、今週末に控えるモビリティリゾートもてぎでの第7戦、そして10月下旬の鈴鹿サーキットでの2連戦を残すのみ。1ポイント差で宮田を追うローソンは、富士テストを足がかりにルーキーイヤーでのタイトルを狙う。

「もてぎは去年の(15号車の)なかでパフォーマンスが一番良かったサーキットで、どちらかというと暑いコンディションの方が、ドライバーもクルマも合っているかなと思うので、うまくいけばいいなと思います」と小池エンジニアは終盤戦に向けた見通しを語る。

「心配なのは鈴鹿です。個人的には苦手としているサーキットなので、とくに予選で前にいくために、いまから考えていかなければいけません。時間もあるので、リアムとも話しながら、チームでも分析して取り組んでいきたいと思います」

 ライバルは宮田だけではなく、DOCOMO TEAM DANDELION RACINGやTSC NAKAJIMA RACINGも「富士テストで“見つけてきた”感があります」と、同じホンダエンジンユーザーの動向にも目を光らせる小池エンジニア。テストを挟んで勢力図が変わりつつあるシーズン終盤戦、さまざまな要素が絡み合う、痺れるタイトル争いから目が離せなくなりそうだ。

スーパーフォーミュラのタイトルを争うリアム・ローソン(TEAM MUGEN)と宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)

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