人気漫画「坂本ですが?」作者早世、兵庫・西宮で惜しむ声と感謝相次ぐ 阪神沿線に舞台が集中「地元愛が随所に」

「坂本ですが?」の主人公を描いたラッピング自動販売機。奥は作品の舞台になったとされるレンタルビデオ店=16日夕、西宮市里中町2

 兵庫県西宮市出身の漫画家で、スタイリッシュな高校生の日常を描いたギャグ漫画「坂本ですが?」で知られる佐野菜見さん(36)が今月5日、がんのため亡くなった。アニメ化もされ、人気を博した同作には、阪神沿線を中心に市内の風景が多数登場する。2016年秋には市や阪神電鉄とのコラボ企画もあり、国内外からファンが「聖地巡礼」に訪れた。「まちづくりの輪を広げてくれた」。16日に死去が伝わり、地元には惜しむ声と感謝が相次いだ。(山岸洋介)

 「こんなにいっぱい西宮が登場するんですよ」。7年前の企画を手がけた市の男性職員は、約30枚の付箋を貼った「坂本ですが?」の単行本全4巻を手に熱く語った。当時、描かれている場所を特定しようと街を歩き回ったという。

 主人公の通う「県立学文高校」のモデルとなった鳴尾高校、マラソン大会のあった武庫川河川敷、主人公が上品なあまり試食シーンが「立食パーティー」に見えたというスーパー…。阪神の甲子園、鳴尾・武庫川女子大前(当時は鳴尾)、武庫川駅のかいわいが作品を彩る。

 コラボ企画はアニメ化を機に、市が阪神電鉄に呼びかけて実現した。鳴尾駅はオリジナルポスターやエピソードにちなむ装飾であふれ、登場スポットを巡るスタンプラリーもあった。阪神電鉄の湯山佐世子さん(42)は「上品でシュールな作風が大好きで、企画会議に出るのが楽しみだった」。舞台が阪神沿線に集中しているアニメ作品は珍しいといい「作者の地元愛を随所に感じる。多くの方に地域を知ってもらえた」と感謝する。

 協力した地域情報サイト・西宮流(にしのみやスタイル)の岡本順子さん(73)によると、スタンプラリーには海外ファンも多く参加し、主人公と同じ学ラン姿の外国人もいた。「ファン同士の出会い、ファンと地域の交流があちこちで生まれた。街が盛り上がり、アニメの力を感じた」と振り返る。

 担当した市の女性職員は「佐野さんと直接会う機会はなかったけれど、すごく前向きに協力してくれ、楽しんでくれていたと出版社から聞いていた」。突然の訃報に4人は「驚いた」「まだ若いのに残念」と悼みつつ、佐野さんに「作品を通じ、人をつないでくれた」と感謝した。

 鳴尾高校の同級生だった男性(35)は「物静かで目立つ子ではなかった。でも絵が抜群にうまくて、文化祭のクラス劇で背景画を彼女が描きあげたのを覚えている」と当時をしのぶ。

 「坂本ですが?」の連載時、同級生の間で「佐野さんが漫画家になった。読んであげて」と連絡が回ったという。登場人物のモデルに心当たりはないが「彼女のフィルターを通って、こう見えている同級生がいたのかも」と懐かしんだ。

 鳴尾・武庫川女子大前駅近くには、主人公を描いたラッピング自動販売機が今も設置されている。16日夕、訃報を聞いて撮影に訪れたファンの女性(35)はアニメ放送中の時期に西宮へ移ってきたといい「とてもショックです。自分の生活と『坂本ですが?』をリンクさせながら街になじんできた。自分にとって特別な作品です」と語った。

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