世界自然遺産登録30周年を迎える白神山地で、地形や地質などを観察して楽しむ「ジオツーリズム」を広めようと、弘前大学農学生命科学部の鄒青穎(ツォウ・チンイン)講師(応用地形学)がモデルコース作りに取り組んでいる。7月下旬、鄒さんの案内で、青森県深浦町の十二湖周辺を歩いた。
「森の物産館キョロロ」から向かったのは「大崩」の観察スポット「鶏頭場(けとば)の池」。この日は雨雲で隠れていたが、通常は大規模な地滑りでむき出しになった乳褐色の岩盤が見える。
33個の湖沼群である十二湖は、約300~600年前に地滑りが何度も発生し、川がせき止められるなどして生まれた。鄒さんの推計では、地滑りした土砂の体積は1.1億立方メートルで東京ドーム約90個分。とてつもない量だ。鄒さんが「白神山地は地滑り多発地帯。理由は割れやすい安山岩でできているから」と教えてくれた。
続いて「青池」へ。高さ約25メートルの切り立った崖に囲まれた池が、澄み切った青い水をたたえていて、まさに秘境だ。この青の秘密も地形にあった。
鄒さんらによる電気探査で、池近くの地中に断層が見つかった。そこからきれいな地下水が湧いているため水が澄み、最深約9メートルの水底が青く見えると考えられるという。また、池を囲む崖は地滑りで押し寄せた土砂の末端部分。急斜面のため雨が降っても土砂が流れ込まず、水が濁らない。
遊歩道沿いに崖の上へ登ると、巨大な岩が現れた。地表に見える部分だけで高さ4メートル超。約1キロ先の大崩から流れてきた安山岩だ。地中には同じような巨岩が大量に埋まっているといい、あらためて自然のエネルギーを実感した。鄒さんは「実際に目で見て大きさを感じたり、歩いて地形の変化を体験したりしてほしい」と話す。
白神山地の青森県側ではほかに、1500万年前の地盤が見られる高さ150メートルの断崖「日本キャニオン」や、大岩やガンガラ穴などの「巨岩・奇岩」など見どころが多い。
鄒さんは県外の高校生をモデルコースに案内するなどして、より分かりやすいガイドの仕方を研究中。深浦町観光課の神林友広課長も鄒さんの取り組みに期待しており「例えば下北の仏ケ浦と日本キャニオンは同じ凝灰岩で、成り立ちが似ているのが面白い。ジオ的魅力を説明できるガイドがもっと増えれば」と語った。