庄内浜で育て「稚ナマコ」 高級食材、漁業所得向上に期待

水槽で稚ナマコの生産を行っている県水産研究所の新魚種生産棟=鶴岡市

 「海の黒いダイヤ」と称され、中華料理の高級食材として重用されている食用ナマコの漁獲量アップに向け、県水産研究所(鶴岡市)は稚ナマコの生産、放流に力を入れている。漁業界の高齢化が進む中、ナマコは波が穏やかな港内などに生息することから沖合に比べて漁がしやすく「長く仕事が続けられる」と期待されている。近年は高値での取引も続いており、同研究所は「漁業者の確保と所得向上につなげたい」と意気込む。

 ナマコは滋養強壮に効果があるとして主に中国などで煮込み料理の食材として引き合いが増えている。農林水産物輸出入概況によると、2022年の輸出実績は393トン(乾燥も含む)で、184億500万円。牛肉の7454トン、513億4700万円と比べると、1トン当たりの単価は約7倍に上る。庄内浜産でも漁獲量10トン当たりの金額で比較すると、04年の500万円に対し、22年は1200万円に跳ね上がっている。

 同研究所の新魚種生産棟では幅1メートル、長さ5メートルほどの水槽にろ過した海水を注ぎ、稚ナマコ飼育用の波板を沈めている。同研究所浅海(せんかい)増殖部主任専門研究員の粕谷和寿さん(42)が波板を上げると、数ミリから数センチの稚ナマコが至る所に付着していた。親となるナマコを購入し、人工採卵や人工授精を行い、0.3ミリほどの幼生から数センチほどの稚ナマコにして放流している。幼生は温度変化や水質悪化に弱く、水温管理やバクテリアの繁殖防止などに気を配っている。

 本格研究2年目の20年度には約2500匹を放流した。翌21年度は約1万匹に拡大。先進地の北海道や青森県の例を参考に本県の気候や既存の設備に合わせて研究している。いいことばかりではなく22年度は水槽内で天敵のシオダマリミジンコが大量発生し、数千匹が全滅したこともあったという。粕谷さんは「今年は数千匹の放流を目指している」と状況を語る。

 庄内浜のナマコは主に3~5月に磯見漁で漁獲している。穏やかな港内におり、沖合の漁に比べて採りやすいという。庄内浜の漁獲量全体は減少傾向で、漁業者数の減少や高齢化も進んでいる。同研究所副所長の高沢俊秀さん(53)は「稚ナマコの生産、放流を通して漁業活性化につなげたい」と力を込めた。

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