「生き延びる術を伝えたい」 “線状降水帯” で77人犠牲 豪雨被災地に「災害伝承館」誕生 被災住民が記憶と教訓を次世代に

“線状降水帯” 知られるきっかけ 77人犠牲の広島土砂災害

台風7号により全国各地で相次いだ大雨による被害…。中国地方でも鳥取県を中心に記録的な大雨となりましたが、その要因の1つとなったのが「線状降水帯」です。

今では多くの人が知る言葉となった「線状降水帯」。一般に広く知られるきっかけとなったのが、2014年8月20日に広島を襲った土砂災害でした。広島市北部で局地的に100ミリを超える猛烈な雨が降り、土石流が頻発。77人が犠牲となりました。

大きな被害を受けた安佐南区八木地区に9月、新たな施設が誕生します。被災した住民の体験を交えながら豪雨災害の教訓や知識を学ぶことができる防災拠点です。

谷筋が土砂の流路に… さまざまなハード対策が進む

RCCウェザーセンター 近藤志保 気象予報士
「犠牲者の多くが集中した安佐南区の八木地区に来ています。9年前の土石流の渓流などには砂防ダムが完成しています。さらにその下には、土石流からいち早く逃れるための広域避難路の整備が進んでいます」

2014年8月20日。八木・緑井地区では山の谷筋で発生したいくつもの土石流が、斜面に広がる住宅地を襲いました。

当時、周辺には、谷筋に沿った急な坂道や入り組んだ路地が多く、道そのものが土砂の流れ下るルートとなり、被害が拡大しました。

その対策として作られたのが、山の斜面に対して横に逃げるための避難路「長束八木線」です。

これまでに全長2.8キロのうち1.5キロが完成し、ふもとを走る幹線道路・国道54号につながるルートの整備も進められています。また、避難路の地下には、山から流れ出る大量の雨水を一時的に貯めて、住宅地の浸水被害を防ぐ巨大な雨水管も作られています。

さらに、被災地ではハード対策だけではない、新たな防災拠点づくりが進められています。

被災した住民自ら運営 新たな防災拠点が誕生

近藤志保 気象予報士
「JR梅林駅から少し山側に入った位置に建てられたのが、『広島市豪雨災害伝承館』です」

9月1日にオープンする豪雨災害伝承館は2階建てで、正面玄関は公園から通じる2階にあります。

1階には最大120人を収容できる研修室が設置され、学校や防災組織の研修などに利用されます。研修室は避難所としても想定されています。2階は展示エリアで被災者の体験談の映像や、当時の土石流の状況を伝える映像や写真が並びます。

広島市豪雨災害伝承館 高岡正文 館長
「やっとってのじゃないなあ。さあ、やるぞって感じかな」

館長を務める 高岡正文 さんです。豪雨災害伝承館ができたのは、高岡さんなど地元の住民でつくるグループの声がきっかけでした。高岡さん自身も9年前に被災した住民の1人です。

高岡正文 館長
「自宅は結局、全壊で。全壊認定されて(2か月後の)10月中旬くらいに壊してもらったかな。わたしは家内と1番下の娘と3人で暮らしていたんですけど、無事、生き残りましたので」

高岡さんの体験は、被災したほかの4人の証言とともに映像として紹介されます。

高岡正文 館長
「当時、ぼくは家の外にいましたので、実際にこの雨の降り方、雷鳴…。それが今、話題の線状降水帯なんだよね、知らなかったけど。本当、目の前に1メートルくらい前に大きな岩が。しかも木がいっぱい流れてきて。だからあれは間一髪だな」

生きる術を伝えたい 全国に記憶と教訓を伝える場に

伝承館の役割は、被災者の体験を伝えるだけにとどまりません。

自動販売機は、ふだんは有料の自動販売機ですが、災害時には飲み物や食料が無料で提供される「防災自販機」に…。隣りのボックスには、簡易トイレや消毒液が備蓄されています。また、憩いのベンチも非常時は炊き出しに使うことができます。

高岡正文 館長
「こういうことを日頃から訓練しておけば使えるようになる。これも講座に入れています。炊き出し訓練」

開館前ですが、県外も含めてすでに20件を超える研修や視察の申し込みがあったそうです。施設の整備を進めた広島市の担当者もこれまでにない防災拠点として期待を寄せています。

広島市 都市整備調整課 小林靖 復興まちづくり担当課長
「この施設は、被災者自らが運営に携わっていきます。これはなかなか全国にはあんまりないかなと思います。それができるのは、被災者の方々があのつらい思いをほかの誰にもさせたくないという強い思いがあって、できることであって。ここにおいでいただければ必ずその思いが伝わると思います」

広島市豪雨災害伝承館 高岡正文 館長
「ざわつくんだよね、思い出すと。ざわつくってことは、生き残ったってことだから。何をしたいかっていうと、伝える。生き延びる術を伝える。生き延びた後の生活の術を伝える。それをもう一点集中でやりたいね。どんなになるか、わかんないけど。やっぱり誰かにしゃべるっていうか、聞いてもらう、これ大事なんよね、ざわついても」

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