最高峰の証、“エグゼクティブラウンジシート”の進化/トヨタ新型アルファード、ヴェルファイア試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が今年6月に登場したトヨタ新型アルファード、ヴェルファイアに試乗する。アルファードは4代目、ヴェルファイアは3代目にバトンがわたった新型は居住性、走り、装備といった全方位で大幅な進化を遂げている。“快適な移動の幸せ”を届ける世界基準の大空間サルーンの実力を深掘りする。

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■快適さを徹底追求した最高峰の移動空間

 トヨタ・アルファード/ヴェルファイアのセカンドシート、それもショーファーカーとしての利用を意識した『Executive Lounge(エグゼクティブラウンジ)』のセカンドシートに身を任せると極上の移動体験ができる。

 “アルヴェル”は、セカンドシートの乗員に心地良く移動してもらうため、新型の開発にあたってボディを徹底的に強化した。その効果については後で触れることにして、動いていない状態でもエグゼクティブラウンジのシート、その名も“エグゼクティブラウンジシート”はいかにも快適そうに見える。

エグゼクティブラウンジシートは、クッションチルト機構の採用により、安定した姿勢を実現。伸縮可能なオットマンでかかとまでしっかりサポート。

 日本の立体駐車場に入る寸法を維持するため、新型アルヴェルの開発にあたっても全幅1850mm以下の数字は維持された。海外では全幅2m級の大空間高級サルーンも存在することを考えると、大空間を確保するには不利。それでも新型アルヴェルは、高い衝突安全性と高いボディ剛性を実現し、外板は平板にならず抑揚を生み出しながら、可能な限り大きな室内空間を確保しようと努力している。

アルファード“Exective Lounge”(2.5リッターハイブリッド/E-Four)車両価格:872万円
新型アルファードのボディサイズは全長4995mm、全幅1850mm、全高1935mm(ヴェルファイアは1945mm)、ホイールベース3000mm。

 本来なら3席並ぶところ、2席としたこともあってエグゼクティブラウンジシートは、ゆったりとしたサイズが確保されている。隣との間隔も適度で、くっつきすぎておらず、離れすぎてもいない。静かな室内でリラックスしながら会話をするのに適度な距離感だ。

 シートには、およそ考え得るすべての機能が備わっている。「安楽姿勢の追求」とトヨタは説明しているが、シートバックのリクライニングと伸縮可能なオットマンを調節することにより、「全身の筋肉を最も使わない、安定した安楽姿勢」をとることが可能。一度シートに体を預けたら、「もう動きたくない」と思わせるほどに快適だ。

 アームレストの内側にはシート型の操作スイッチが設置してあり、安楽姿勢であっても直感的に操作することが可能。さらに乗員にとって安楽なのは、脱着式のリヤマルチオペーレーションパネル(端的にいうとリモコン)でポチポチと操作ができるというわけだ。自宅のソファで怠惰な姿勢をとりながらスマホをいじる感覚である。

安楽姿勢時でも手の届くアームレスト内側に直感的に操作可能なシート型スイッチを設定。
リヤマルチオペレーションパネル(脱着式)。後席の多彩な機能を操作できる。

 このリモコンが便利なのは、シートだけでなく、オーディオやエアコン、ランプ、サンシェードなど、さまざまな機能について操作できることだ。シートにはエアコン(ベンチレーション/ヒーター)も付いているし、エアブラダーの膨張によって背中から大腿部までを押圧するリラクゼーション(マッサージ)機能も備わっている。至れり尽くせりだ。

 シートバックを倒した際は天井が目に入りやすい。新型アルヴェルは、エアコンの吹き出し口や各種操作スイッチ類にイルミネーションを集中配置したスーパーロングオーバーヘッドコンソールを採用。サンシェードを降ろして室内を暗くし、全64色から選択可能なイルミネーションから好みの色を選択して点灯すると、リラクゼーション効果がさらに高まる。心と体をリフレッシュするのにもってこいの環境が整っていると感じた。

アルファード“Exective Lounge”(

 エグゼクティブラウンジシートは、仕事をするのにも適していて、内側のアームレストには旅客機のシートのようにテーブルが収納されている。取り出してみると意外にコンパクトだが、これは使われ方を調査した結果だ。新幹線のテーブルのようにガッツリ食事をする目的で使用するケースはほとんどなかったそうで、手帳やタブレット端末を置く使い方が多かったそう。はみ出しはするが、ノートPCを置くことも想定している。

 回転格納式のテーブルにはバニティミラーが付いており、降車する前に身だしなみを整えるのに役立つ。サンバイザーに付いているバニティミラーのようにスライド式のシャッターを付けなかったのは、収納性を考えテーブルを薄くするため。むき出しだと乗員が直接触れた際に手油が付いてしまうので、「油性マジックで落書きしてもすぐ消える」防汚コーティングが施してある。配慮が行き届きすぎていて、怖いほどだ。

 快適な乗り心地を実現するためにボディを強化したことについては前述したが、エグゼクティブラウンジシートにはさらに手が入っており、シートフレームとシートクッションフレームの間に防振ゴムを挟んでいる。これにより、車両側から入力される10〜15Hzの低周波振動を抑制。

 さらに、シートバックとアームレストに低反発ウレタンを採用して20Hz以上の振動を吸収する凝った設計としている。シートクッション部には座面分散性の高いウレタンを採用し、腰の安定性を高めた。この結果、上半身の揺れが抑えられるという。

「これってもしかしたら、新幹線で移動するより快適かも」というのが、エグゼクティブラウンジシートに身を任せて移動した感想である。運転してくれる人が必要だし、新幹線移動より時間はかかるかもしれない。だが、周囲の目を気にせずにリラックスしたり、仕事に集中したりできるのは、新型アルヴェルでの移動の特権だ。

■「ベストバイは2.5Lハイブリッド車。運転重視派は、19インチが標準のヴェルファイアを」

 後席の乗員に快適に過ごしてもらうためには、ドライバーの操作に対して余計な動きや大きな動きが出ては困る。そのためもあって新型アルヴェルはボディを徹底的に強化した(具体的には局所および全体の剛性向上を図った)わけだが、その甲斐あってドライバーの立場でアルヴェルと対峙しても満足のいく仕上がりになっている。2tオーバーの箱形ミニバンが意のままに動くのだ。楽しくないわけがない。

 アルファードとヴェルファイアともに2.5リッターハイブリッド車を設定。アルファードのガソリン車は2.5リッター直4自然吸気エンジンとCVTの組み合わせなのに対し、ヴェルファイアのガソリン車はハイパワー&ハイトルクな2.4リッター直4ターボ+8速ATを組み合わせる。

新型アルファード。ボディカラーは新色のプレシャスレオブロンド。
2.5リッター直列4気筒DOHCエンジン(A25A-FXS)を搭載したトヨタハイブリッドシステムを採用。システム最高出力184kW(250ps)のを発生する。
ヴェルファイア“Z Premier”(2.4リッターターボエンジン/FF)
ヴェルファイア“Z Premier”(2.4リッターターボエンジン/FF)

 このうち、アルファード2.5リッターハイブリッド車 E-Four(17インチ)、ヴェルファイア 2.5リッターハイブリッド車 E-Four(19インチ)、ヴェルファイア2.4リッター直4ターボ車 FF(19インチ)、アルファード2.5リッターハイブリッド車 FF(17インチ)に試乗した。

 2.5リッターハイブリッド車・17インチは極上の乗り心地。同じ2.5リッターハイブリッド車でも、ヴェルファイアの19インチタイヤ装着車は引き締まった乗り味が印象に残る。路面の微細な凹凸や突起をコツッ、コツッとインフォメーションとして乗り手に伝えてくるのが、路面状況を問わず至って平穏なアルファード17インチとの大きな違い。

ヴェルファイア“Exective Lounge”(2.5リッターハイブリッド/E-Four)

 ヴェルファイアには高い操縦安定性と接地感を提供する目的で、ラジエーターコアサポートとフロントサイドメンバーを結ぶフロントパフォーマンスブレースが追加されている。この特別な設計の効果もあり、明らかに硬派な乗り味となっている(セカンドシートの快適性を損なわない範囲で)。

 動力性能面では、2.5リッターハイブリッド車(システム最高出力184kW)でも充分と感じた。ヴェルファイアに専用設定の2.4リッター直4ターボ車(最高出力205kW、最大トルク430Nm)は、それはそれで刺激的だが、2.5リッターハイブリッド車との相対差はそれほど大きくない印象(筆者が鈍感なのは置いておき)。

 裏を返せば、2.5リッターハイブリッド車の出来がいいということだろう。ベストバイは2.5Lハイブリッド車。運転も積極的に楽しみたい派は、19インチタイヤが標準の硬派なヴェルファイアがおすすめだ。

ヴェルファイア“Exective Lounge”(2.5リッターハイブリッド/E-Four)

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