「またメジャーチャンピオンに」 松山英樹の途絶えた記録と、生まれた確信

BMW選手権2日目。棄権が決まるちょっと前の様子(撮影/田辺安啓(JJ))

◇米国男子プレーオフ第2戦◇BMW選手権 最終日(20日)◇オリンピアフィールズCC(イリノイ州)◇7366yd(パー70)

2日目のスタート前のドライビングレンジ。松山英樹が棄権を決めるまでの数十分間は、ちょっと不思議な空気が流れていた。クラブを握っては、背中の痛みに顔をしかめて、なかなか練習が進まない。サポートメンバーと言葉を交わす松山の様子は「棄権」の選択肢を迷う緊張感と同時に、どこか穏やかな空気もまとっていた気がした。

スタート前のウオーミングアップで背中の痛みが出て、会場で練習を始めたが、スタート30分前に棄権した。その決断に至るまで、練習場では早藤将太キャディ、黒宮幹仁コーチ、須崎雄矢トレーナーに意見を聞き、体の状態と今後について相談し続けた。10年連続のプレーオフ最終戦「ツアー選手権」出場をかけた試合。ストレスや葛藤を抱えながら、苦渋の決断を下すとき、信頼できるサポートチームに対しての安心感があったのかもしれない。

松山を囲む面々は早藤キャディに加え、昨秋からアドバイスを受けるようになった黒宮コーチと、昨年末から須崎トレーナーが加わった。3人とも松山とは同世代。年齢もあるのだろうか、チームにはいつも一体感が感じられた。

ほっとしたよね 須崎トレーナー(左)と黒宮コーチ(右)(撮影/田辺安啓(JJ))

印象に残っているのが、プレーオフ初戦「フェデックス・セントジュード選手権」の最終ラウンド終了後。松山が上がり4ホールで怒涛(どとう)のチャージをかけ、プレーオフ2戦目のポイント(フェデックスカップ)ランク50位のフィールドに滑り込んだ時だった。来年からPGAツアーの出場資格は一新され、トップ50に入れなければ、賞金と付与ポイントが増額される「昇格大会」8試合への出場ができなくなる。松山と一緒にクラブハウスに戻って来た黒宮コーチと須崎トレーナーに、満面の笑みが浮かんだのが忘れられない。

「けがと向き合いながらの1年、よく50位に入れたなと」と黒宮コーチは振り返った。首、背中、腰と順繰りに来る体の痛みに対応しながらの今シーズン。毎朝、体のコンディションを見ながら試合に臨むもどかしさを間近で見てきただけに、ランク50位以内に食い込んだ踏ん張りは心の底からうれしかった。

黒宮コーチだけでなく、そのプレーを見た人の多くが抱いたであろう2戦目への期待。第2ラウンドのスタート前まで粘ったが、「最終的には本人の決断ですが、体の状態を悪化させるよりも、完全な状態で次に充てられるようにと今回は辞退を決めました」(黒宮コーチ)とシーズンを終えることを選んだ。

10年連続での最終戦出場という記録は途絶えたが、見えたものは確かにある。「最終的にはまた優勝、そしてメジャーチャンピオンになってもらいたい。あの4ホールで、その力があるというのが改めて見てとれました」と黒宮コーチ。棄権の決断の裏には確信があった。

練習場を去る時でさえ「仕方ない」とばかりに笑い飛ばした黒宮コーチ。「けがが完治した時には、もう1回ちゃんと戦える」。この笑顔がある限り、チーム松山はきっと強い。(イリノイ州オリンピアフィールズ/谷口愛純)

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