武田梨奈 (樋山那智(大人)役) - 映画『尾かしら付き。』コンプレックスは武器にもなるなと気づけました

自分の個性を肯定的に感じていただきたい

――『尾かしら付き。』の原作は元々ご存知でしたか。

武田梨奈:

お話をいただいてから読ませていただきました。最初はファンタジーなのかなと思いましたが読み進めると日常としてそれぞれが抱えているコンプレックスのお話で、今こそ伝えられることが沢山ある作品だなと思いました。

――今は多様性についての議論も活発でそれぞれのパーソナリティについて大事にされているので、今に求められている作品ですね。

武田:

そうですね。

――中学生・高校生ではまだ世界やコミュニティが学校と家の周りぐらいでそれほど広くないので、なかなか抜け出せないという辛さもあります。

武田:

正にその通りで、比べるものが身近にありすぎるということが学生時代の難しさです。特に今はSNSも一般的になっているので、自分を肯定して生きられることが難しくなっていると思います。この作品を観て、自分の個性を肯定的に感じていただきたいです。

――樋山那智は宇津見快成の個性を可愛いと好意的に受け止めていたのが良かったです。

武田:

凄く真っ直ぐですよね。那智はまっすぐ伝えられる子で、いい意味でのピュアさ・鈍感さを持っているのが素敵だなと思いました。そこが快成の繊細さと重なって二人は惹かれ合っていったんだと思います。

――快成も受け入れて欲しいという気持ちは持ちながらも今までの経験からそれを諦めているところもあって、そこを那智がまっすぐに受け入れてくれている。それによってぶつかってしまうこともあります、そういった所がただ理想だけの世界の描いているわけではないので良かったです。

武田:

大人になって二人が良い関係性を築いている中でも消えない悩みだと思います。大人だからこそ言えないところもある、そこが若い世代の方だけじゃなく幅広い世代の方に通じるものになっているんだと思います。

――作中でも快成は転校を繰り返していますが、嫌なことから逃げてもいいんですよね。子供だと経済的なことなどなかなか自分で行動できないですが、そういう面では快成は最大限の努力・理解を続けているので強い子だなと感じました。

武田:

そうですね。

私と同じだと思い安心しました

――今作は学生時代と大人になった二人ということで10年の時が経っています。学生時代と大人とでキャストさんが変わっていますが、同じ役を演じた二人がリンクしないといけないわけですがいかがでしたか。

武田:

学生時代を自分たちで演じていたら大人の二人の関係性を育みながら演じられたと思いますが、その部分がなかったのでどう気持ちを埋めるかは課題でした。大人の快成を演じた佐野岳さんはコミュニケーションを積極的にとってくれる方で、出会った瞬間から「敬語使わずに、那智と快成として会話しよう。」と言ってくださったのでスグに距離を縮めることが出来ました。

――中学生からの付き合いだと敬語はオカシイですからね。

武田:

そういった面では上手く関係性を作ることが出来ました。撮影入る前には大平さん演じる那智の現場も見させていただき、話し方など近づけられるように意識しました。

――同じ那智を演じた大平さんとはお話しされたりはしましたか。

武田:

現場でお会いして、お話しさせていただきました。1つ聞きたいことがあったんです。その回答によって私の快成に対する気持ちも変わってくるだろうと思っていたんです。

――その質問というのは何ですか。

武田:

「快成の一番好きな所を教えて」という質問です。その質問に返ってきた言葉が、私が原作・台本を読ませてもらったときの印象と同じだったので安心しました。

――印象というのは。

武田:

「自分のことじゃなくて那智のことを凄く考えてくれてるんです。」と学生時代の那智を演じた大平(采佳)さんは言ったんです。

――確かに。

武田:

快成はしっぽというコンプレックスがありますが、那智は「そこも含めて好き。」と言ってくれてるんです。快成はその気持ちを否定しているわけでも、那智には分からないと拒絶しているわけでもなく、那智にとって良くないと快成は考えているだと感じていました。大平さんの一言を聞いて私と同じだと思い安心しました。

向き合って言ってくれているのが良い

――改めて振り返ると那智も快成も二人とも大人ですね。年齢にかかわらず、嫌なことがあれば相手に恨み言を言ってしまいますから。

武田:

言い訳をしたくなりますよね。後半の快成は特に誰ともかかわらない様に過ごして、自分だけで背負っています。それは冷たい人間という訳ではなく、優しさゆえの行動なんです。そこに那智はまっすぐな心でぶつかっていっている、そこが二人のいいバランスなんだと思います。

――那智自身も日に焼けないというコンプレックスがあり、その体質からソフトボール部の活動を頑張っていないと見られてしまうのがストレスになっていた。その経験があるから快成を受け入れられたという部分もあるんだと思います。日に焼けないというのは人によっては羨ましい人も居て、コンプレックスに感じていることも人からは羨ましい事というのはよくあることなんですよね。

武田:

その人のコンプレックスを羨ましく思う人も居ますよね。コンプレックスは自分自身で生み出している部分もあるなって思います。それは大人になって思えるようになったことですね。

――自分のことになるとなかなか分からないですし、マイナスの声は大きく聞こえますから。

武田:

本当にそうですね。

――だからこそ、支えてくれる相手が居るのが大事なんですね。那那智には姉の志穂(新内眞衣)がそういう人で、高校時代は木村昴さんの葛城楓太(木村昴) がそう。あんなにまっすぐなことを言ってくれる大人の人も中々いないですから。

武田:

子供だましに言うのではなく、ちゃんと向き合って言ってくれているのが良いですね。

――大人になるとあれだけストレートにというのは言えないです。

武田:

中学生でもなかなか言えない部分ありますよね。恥ずかしくて言えない、責任感から言えない、違った言えない理由が出来てしまう。

――武田さんはストレートに言える人ですか。

武田:

私が周りから相談を受けたときは「私はこう思う」と答えるようにしています。あなたは違うと思うかもしれないし、他の人に同じことを聞くと違う答えが出るかもしれない、私の意見だからと言ったうえでストレートに言うようにしています。伝え方ひとつで良いことを言っているつもりでも傷つけてしまうこともあります、場合によっては一生その言葉がループすることもあるのでいろんな見方があるということは伝わるように気を付けています。

――伝えた側がそれほど重く考えていないことで傷つけてしまうこともありますからね。

武田:

快成と那智が悩んでいることを快成のお父さん(龍成/長谷川朝晴)が気づいてあげたり、志穂や葛城も学生たちの悩みから自分たちも気づけることがあったと思います。

――本当にその通りです。気づかせるつもりが気づかされるというのもよくあることです。

武田:

先日、那智や快成と同世代の若い方たちとお話しする機会があったんです。そこで相談を聞いて、その時に逆に私が気づかされることもありました。こういう考えなんだと聞いた時、それが私にはない選択肢で凄いなと思いました。若い世代の方から学ぶことも沢山あります、この映画を観て自分になかった感性に気づく方もいらっしゃるんじゃないかなと思います。

自分を肯定できるようになりました

――今までにいろんな方に出会われ勇気をもらえた、一歩踏み出すきっかけをもらえたということはありましたか。

武田:

毎回誰かの言葉に支えられています。最近、いろんな国の方々と友達になる機会があったんです。そこで仲良くなっていく中で今の私を見て良いと言ってくれて、私の考えが好きだと言ってくれるんです。私もコンプレックスを沢山抱えていますが、私のことを見つけてくれたんだというのを感じられたのが凄く自分を肯定できるようになりました。

――外から言ってもらわないと気づけないこともありますからね。

武田:

この出会いで、自分のいいところを見つけることが出来ました。

――コンプレックスが悪い事ではないですからね。

武田:

本当にそう思います。

――長所と短所が表裏一体と言いますし、コンプレックスがあるから頑張れることもありますからね。

武田:

はい。

――完成した映画を観られていかがしたか。

武田:

コンプレックスは悪いものだけではないということを改めて感じました。私で言うと空手やアクションを十代のころから習っているんですけど、本当に不器用だなと感じていて。

――全然、そんな風には見えないです。

武田:

指導してくださる先生からも「不器用だね」と言われるんです。「でも、不器用だからこそ、あなたは凄く頑張るから。」とも言ってくださるんです。「あなたは不器用だから毎日凄い練習する、だから器用な人より上手くなれるんだよ。」と言われて。当時、凄い落ち込んでいたんですけど、その言葉に勇気をもらえました。努力する力を身に付けられ人よりも上に行こうと思えたので、コンプレックスは武器にもなるなと気づけました。この映画はそのことに通じるものがあるなと思いました。この出会いで、自分のいいところを見つけることが出来ました。

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