おはぎ、だいふく、もなか…「あんこ屋さん」の思い出残る倉庫をシェアアトリエに さいたまの青木製餡工場

改築された「アトリエあずき倉庫」。1階通路の左右に小部屋が9部屋並ぶ

 埼玉県さいたま市浦和区岸町の「青木製餡工場」は、戦前に和菓子のあんこを販売する会社として創業した。県庁にほど近い浦和の市街地に立地し、周辺の再開発が進む中、当時の建物を維持してきた。「90年以上の歴史を残したい」―。敷地内の小豆倉庫をリノベーションし、9月にシェアアトリエとして再出発を切る。

 長野県出身の青木久保雄さん夫妻が1928年、現在の川口市で同社を立ち上げた。32年に浦和に移り、現在の工場を設立した。昭和の最盛期には200軒を超える和菓子店にあんこを販売したという。2011年に長男で2代目の一巳さんが82歳で亡くなり、工場は稼働しなくなった。

 埼玉新聞社の旧社屋の跡地を含め、周辺は数多くの高層マンションが建設され、様変わりした。工場の敷地は約700坪。廃業後に複数の不動産業者からマンション用地への売却を依頼される。一巳さんの長女の渡部成恵さん(61)=さいたま市南区=ら家族は全て断ってきた。会社の歴史を後世に引き継ぎたいと、工場のほか、小豆倉庫、「浦和のあんこ屋さんの煙突」として知られる高さ約20メートルの煙突、戦時の防空壕(ごう)が当時のまま残されている。

 工場の敷地内に自宅があり、渡部さんは子どもの頃から小豆を炊く匂い、和菓子店のオートバイや軽乗用車の音を聞いて育った。祖父母や両親が一生懸命に働く姿を見てきたからこそ、「歴史ある工場。この景色をどうしても残したい」と強い思いがある。

 アトリエとして改築したのは、工場敷地内にある小豆倉庫。1951年に建てられた木造2階建てで、和菓子店の貸し倉庫として、昨年4月まで使用されていた。1階には小豆を運んだトロッコとレールが現役で残されている。

 名称は「アトリエあずき倉庫」。1階に約5~9平方メートルの小部屋が9部屋あり、「おはぎ」「だいふく」「もなか」など和菓子の名前が付けられている。1階奥にカフェスペース「あんこカフェ」を設け、地域の人が集える場所を目指す。2階は入居者が自由に使えるラウンジで、一般の利用者にも貸し出す予定。

 入居者は個人事業主やクリエーターらを想定。女性の社会的な活躍を応援しようと、女性を優先に募集する。利用料は月額4万8400円から。入居は9月上旬から可能で、アトリエあずき倉庫の公式ホームページから申し込む。

 渡部さんは緑豊かな敷地が、地域に開かれた場所として受け継がれることを望んでいる。「応援、協力し合い、情報交換をするコミュニティーができたらうれしい。一緒に地域を盛り上げていきたい」と話した。

「90年以上の歴史を残したい」と話す青木製餡工場の渡部成恵さん=さいたま市浦和区岸町7丁目のアトリエあずき倉庫

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