全国初「レベル4」の自動運転、福井で開始 要のセンサーや制御装置提供、安全と快適の両立に苦心 三菱電機

「レベル4」の自動運転車両を使った移動サービスで、三菱電機が果たした役割について語る田中英之さん=姫路市千代田町

 福井県で5月、全国初となる「レベル4」の自動運転車両を使った移動サービスが始まった。特定の条件下での完全自動運転を実現し、肝となる各種センサーと制御装置は、三菱電機自動車機器開発センター(兵庫県姫路市)が提供した。安全に走るため、歩行者や自転車だけでなく、小さな障害物でも自動ブレーキが作動するようにしたが、停車しなくていい場所でもブレーキがかかってしまうなど、安全性と快適性の両立には苦労があったという。(大島光貴)

 福井県永平寺町にある京福電気鉄道の廃線跡を活用した遊歩道。その一部区間約2キロを、自動運転機能を備えた7人乗り電動カートが時速12キロで走る。運転席には誰も乗っていない。土日祝日に定時運行し、大人は100円で乗車できる。いざという時のため近くに遠隔監視室を備える。

 「レベル4」の移動サービスは、政府が進めるプロジェクトの一つ。2020年後半、幹事機関の産業技術総合研究所や、車両とシステム開発などを担うヤマハ発動機から打診を受けて、三菱電機も参画した。

   

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 同社は約10年前から自動運転システムを開発し、自動車メーカーに納入してきた実績がある。ただ、今回の「レベル4」に求められる性能は「世の中に出ている自動車とは違う」と、事業責任者を務めた同センターの田中英之さん(47)は強調する。「運転にかかわる全ての判断を、人間ではなくシステムがしなければならない。かなり安全に作り込んだ」

 カートに搭載するセンサーの精度を高め、自動ブレーキの範囲を拡大。15センチ四方の障害物や、車の進行方向に対して縦向きに倒れている子どもも検知し、停車するようにした。

 昨年10月、車両性能を確認する日本自動車研究所(JARI)の第三者認証試験を通過。障害物や倒れた人がいる時のほか、濃霧や降雨時の制御など15件39項目を全てクリアした。道路運送車両法や道路交通法に基づく許認可取得につながった。

   

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 ただ、悩ましい問題があった。安全性を高めれば高めるほど、道路にはみ出た木や草なども障害物と検知し、停車が不要な場所で自動ブレーキが作動してしまう事例が何度も発生した。現地で最終調整を始めた今年3月には、1往復で10回ほど起きたという。

 「そこからは泥くさい作業でした」と田中さん。止まる必要のない場所で検知した物体について、無視してよいことを一つ一つシステムに学習させた。その結果、4月下旬には同様のケースを1往復で1回程度に減らすことに成功。5月の運行開始後も、大きな問題は発生していないという。

 政府は25年度をめどに、地域限定型の無人自動運転移動サービスを国内50カ所程度で行うことを目指す。三菱電機は6月末で今回のプロジェクトから離れたが、今後も自動運転の技術を磨く構えだ。田中さんは「ビジネスになるか見極めが必要だが、少子高齢化が進む日本で過疎地の足をどう確保するかという課題に、自社の技術が貢献できる意義は大きい」と話す。

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