高校野球に危機? 審判が足りない…選手がいても試合できず 一度は諦めた甲子園の夢を審判として目指す球児も

名勝負が繰り広げられた高校野球。その名勝負に欠かせない「審判員」を巡って、いま大きな問題が起きています。「選手はいる、会場もある、でも、審判がいなくて試合ができない」一体、なぜ。

「お前、審判なんかようやっとるな」

三重県四日市市の高校に集まった2校の野球部員たち。しかし、この日の主役は高校生ではありません。

グラウンドの端には、40人の審判員。三重県高野連が審判員のスキルアップを目的に開いた講習会です。

(三重県高野連 堤長功審判部長)
「ランナーが1塁に付きますので、ダブルプレーの練習をします」

際どいプレーを見極める動体視力と咄嗟の判断が求められる審判員。日本中が熱狂したWBCも、見え方が全く違うのだとか。

(三重県高野連 堤長功審判部長)
「全然見えるところが違うんですよ。注目されとるんは大谷翔平選手かもしれませんけどね。アウトの判定で左手使うんアリなん?とか、いっぺんどっかでやってみよかなとか、ぼくらはそういうところばっかり見とる」

ただ、審判員を取り巻く環境は、甘いものではありません。

(三重県野球競技会 伊藤安常任理事)
「やり手がいないんですよ。『お前、審判なんかようやっとるな』と言う野球経験者もおる」

野球人口そのものが減ったこともあり、ピーク時は三重県に80人ほどいた審判員も3分の2に。

(三重県高野連 栗谷佳宏理事長)
「実際、昨年は支障が出て、球場があって両チームいるんやけど審判がいなくて日程を変更したり」

審判員と仕事の“二刀流”

試合の際は交通費と数千円の手当が出ますが、防具などは自前。審判員の大半が平日に仕事を抱えています。講習会に参加した人も…

「タイヤ工場でタイヤ作ってます」
「社会福祉協議会に勤めています」

審判歴20年の辻健太郎さん(47)。平日は松阪市の施設で、引きこもりや認知症など悩みを抱える人を支援する社会福祉士として働いています。野口さんの上司は…。

(嬉野地域振興局地域住民課 野口伸也課長)
「県大会も(辻さんが審判をしているのを)テレビで拝見した。業務が大変な中で高校生の青春のために頑張っている」

一方で、土日は練習試合の審判。年間で100試合以上の審判を行っています。

(辻健太郎さん)
「(3月など多い時期は)土日祝はほぼ練習試合入ってきますよね。月曜日の朝はちょっと仕事のエンジンがかかるまではしんどいですが、でも好きでやっていることなんで」

もともと、野球経験は全くなかった辻さん。20年前、たまたま目にした夏の甲子園に魅了され、審判の世界に。

(辻健太郎さん)
「審判が一番ベストボジション。捕手の後ろで見渡せて、一体感というのは職場では味わえない」

5年前には夢の舞台にも。三重県代表の審判として、夏の甲子園で塁審を担当しました。

(辻健太郎さん)
「2018年の100回大会で行かせてもらった。夏の大会だと一球一打への歓声とか盛り上がりもそうだし、際どいプレーだと一瞬静まるんですよね」

甲子園では、2週間の長期休暇を取った辻さん。仕事や家庭と審判員の両立は決して簡単ではありません。

(辻健太郎さん)
「本当に気持ちがないと。週末遊んだり彼女ができたりすると、こうして土日練習試合に捧げられるか…厳しい現実ですよね」

一度は諦めた夢 審判で甲子園目指す

そんな中、新たに審判の道に進む人も。今年、大学生になった仲村隆ノ輔さん(18)。

(仲村隆ノ輔さん)
「目標は130キロ以上投げることと21世紀枠で甲子園出場と思っていたんですけど」

高校時代はピッチャーとして甲子園を目指していましたが、去年夏の県大会では初戦で強豪校に敗退。大学でも野球を続けるつもりでしたが、肩の故障で全力投球ができなくなりました。

(仲村隆ノ輔さん)
「肩が上がらないというか痛くて。響く感じで。ほかのひとたちが全力で野球をしているのを見て、もどかしさはあります」

どうしても野球を諦めきれず、審判を志し、高野連の講習会に参加。ことし、正式に審判員に。人手不足のため、3日後には練習試合でデビューです。

(仲村隆ノ輔さん)
「結構緊張してます。ミスしたくないんで」

先輩の「審判の指導」にも熱がこもります。

(先輩の審判員)
「高齢の審判が増えるのは仕方ないですけど、若い年代に興味を持ってもらえるのは嬉しいですね」

選手の頃には果たせなかった夢を、審判で叶えたいといいます。

(仲村隆ノ輔さん)
「いまはまだ数をこなさなきゃですけど、練習試合重ねて、甲子園を目指せたらいいなと。甲子園に立てるもんなら立ちたいっすね」

名勝負には無くてはならない審判。なり手不足と高齢化が進む中、若い戦力に期待が集まっています。

「チャント!」2023年4月放送

© CBCテレビ