【インドネシア】冷凍食品をバリ島から宅配[商業] delibali、首都にサービス拡充

デリバリの広告。専用アプリ(QRコードからダウンロードする)を用いて商品を注文する

インドネシア有数の観光地バリ島で冷凍食品の宅配事業を手がける、日本人が創業した「delibali(デリバリ)」が、首都ジャカルタにもサービスを拡充した。自社製のほかバリ島内のレストランなどで調理した食品を冷凍してバリ島から陸路で配送し、在留邦人を中心に宅配する。コールドチェーン(低温物流)に課題が残るインドネシアで、輸送中にも商品のマイナス温度を維持して顧客の手元まで届けるために、1年半以上かけて準備を進めてきた。【山本麻紀子】

デリバリは2019年12月に創業した。販売する商品は、豚肉ベーコンや合いびきミンチなどの肉製品、みそや米こうじなどの調味料、弁当にも便利なハンバーグやギョーザ、大福や抹茶プリンといった和菓子まで約400品。バリ島では冷蔵品や常温品も提供しているが、ジャカルタ向けは今のところ冷凍食品だけ約60品を扱っている。

自社スタッフが調理するオリジナル商品のほか、デリバリがレストランなどに調理を委託して販売する商品もある。外注商品は、委託先が調理から包装、冷凍まで完了してからデリバリに納品し、バリ島クタ地区にあるデリバリの拠点から配送業者がジャカルタまで冷凍車で輸送する。常夏のインドネシアでは、どれだけ新鮮な食品でも気温や湿度の高さですぐに傷んでしまうため、調理後は即座に冷凍パックしている。

注文はデリバリ専用のアプリで受け付けている。アプリはバリ島在住の日本人が経営する会社に開発を委託した。現在のダウンロード数は8,000以上。バリ島内の顧客を含めて約1,500人以上から、月平均3,000~4,000品の注文を受けている。

ジャカルタで配達可能な地域は、北部や東部の一部エリアを除くほぼ全域。現在は顧客からの注文をまとめて1週間に1回、バリ島からジャカルタまで配送する。デリバリ創業者の一人、高阪知之さんによれば、冷凍商品が溶けないようにある程度の量をまとめて包装するため、1回当たりの最低注文額を20万ルピア(約1,900円)に設定している。また配送料は1回当たり6万ルピアを徴収している。

デリバリのジャカルタでの配達可能エリア。将来的には西ジャワ州ブカシやチカランにも展開したい考え(同社提供)

■コロナ下で個人向けに拡販

デリバリは当初、自社の商品を冷凍してホテルやレストラン、スーパー向けの卸売業を手がけていた。新型コロナウイルスの流行でバリ島の観光業が大打撃を受け外食産業の需要が激減したことから、20年7月からバリ島内でアプリを通じた個人客向けの小売り販売を開始、23年6月にはジャカルタにも販路を広げた。

コロナ下では個人向け販売が大半を占めたが、感染が収束してバリ島に観光客が戻ってくるにつれて業務用の販売も順調に回復。現在では個人客と業務用の売上比率が半々となっている。

またデリバリがジャカルタに進出したのを機に、バリ島の外食産業の中には販路を拡大したいと考えて新たな商品を開発する業者も出始めた。

■冷凍配送に試行錯誤

バリ島からジャカルタまで直線距離で約1,000キロメートル。ジャカルタに自社拠点を設けるより陸送のほうがコストを軽減できると判断したが、冷凍食品の輸送は容易ではなかった。冷凍車の輸送業者は、デリバリ以外の顧客の集荷や輸送のために各地を経由することから、ジャカルタまでは約4日かかる。

ジャカルタまでの陸送と顧客の自宅までの配達を行うのはいずれも、コールドチェーンのフルフィルメント事業を手がけるスタートアップ企業だが、デリバリがその業者に決めるまでは試行錯誤の連続だった。

複数のコールドチェーン物流業者を試してみたものの、配達先に届くころには冷凍食品が完全に解凍していたり、中には腐敗してしまったりしたこともあった。バリからジャカルタまでの空輸も試みたが、うまくいかなかった。度重なる失敗に一度はジャカルタ進出を諦め、トライアルを一時中断したこともあった。

宅配業者がデリバリの配達に使用している電動バイク(デリバリ提供)

■マイナス温度を維持

探し当てた現在の配達業者では、配達時間をずらしたり、配送する商品を変えたりして20回以上の試験配達を繰り返した。トライアルの際には、配送商品の中に温度センサーを梱包(こんぽう)して、デリバリのオフィスから顧客の手元に届くまでの温度をモニタリングした。一定時間おきの温度データを計測したところ、この業者だけが配送中のマイナス温度を維持できた。

これにより自社店舗をジャカルタに設けて直販するのではなく、バリ島と同様に、アプリで注文を受け付けて自宅に配達するスタイルを確立することにした。

試行錯誤の結果、ようやく配達業者が決まったが、試験的に宅配を始めると新たな問題も浮上した。配達業者はあらかじめ効率の良い配送ルートを決めて時間のロス削減を図っているが、当初はミニバンを使用したために、ジャカルタの交通規制の時間帯に重なって回り道を強いられたり、交通渋滞で遅配が起きたりしたこともあった。このため配達業者には車ではなく、冷凍庫を搭載した電動バイクを使用してもらう対策を講じた。

ジャカルタでの利用を決めた配達業者は、配送中もマイナス温度を維持していることを確認した(デリバリ提供)
デリバリがバリ島内で顧客宅まで商品を配達する際に使用する保冷バッグ。デリバリがオーダーメードで製作した(同社提供)

デリバリは配送で問題が生じた場合には、配達業者と密に連絡を取り、サービスの改善を図っている。今後の課題は、顧客の手元に商品を届ける配達業者のドライバーの位置情報をリアルタイムで把握できるようにすることだ。高阪さんは「将来的には冷凍食品だけでなく、バリ島内と同じくジャカルタでも冷蔵品や常温品の販売を始めたいと考えている」と話した。またニーズに応じて、日系企業が多く進出する工業地帯のある西ジャワ州ブカシやチカランなどにも配達エリアを広げたいとも考えている。

デリバリ創業者の高阪さん(右)と、山本恭子さん=ジャカルタ(NNA撮影)

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