野生の○○が現れた!アライグマ、シカも…近年は1億円規模、埼玉で農作物被害が深刻 生息域の広がり影響

アライグマの被害に遭ったスイカ(上)とブドウ(県農業技術研究センター提供)

 埼玉県ブランド「彩玉」をはじめとした梨が収穫期を迎え、県が生産量全国トップを誇る里芋や特産品のサツマイモなどの“秋の味覚”が収穫を控える中、台風や降ひょうと並んで農作物に深刻な被害を与えているのが、アライグマやイノシシなどの野生鳥獣だ。生息域の広域化に伴って被害範囲が拡大し、県における近年の被害金額は1億円規模で推移する。営農意欲の減退、耕作放棄地増加の原因にもなり、被害額以上の影響を及ぼすことから、県では、市町村・JAとの連携や農業従事者に対する電気柵などの設置補助を通して、対策強化を図っている。

 2022年度の鳥獣による農作物被害(速報値)は、県内36市町村で発生し、被害金額は計7891万円となった。種別の被害額ではアライグマの1917万円が最も多く、次いでシカ(1731万円)▽サル(1174万円)▽イノシシ(1089万円)▽ハクビシン(953万円)の順となっていて、この5種で被害総額の87%を占める。

 地域別では、秩父地域の山間部や比企・入間地域の中山間部での被害が顕著だが、環境の変化などによって獣類の生息域は広がりつつある。特にアライグマ、ハクビシンは市街地の空き家や天井裏にすみ着くことから、県内全域に被害の拡大が懸念される。

 このため県農林部では「獣害防止マニュアル」を作成し、効果的な電気柵の設置方法をはじめとした防止策や地域指導者の育成研修などの取り組みを、市町村・JA職員と連携して進めている。アライグマ対策としては、県農業技術研究センターが、猫やタヌキも捕獲されることのあった従来の捕獲器に対してより効率的にアライグマだけを捕獲できる独自の捕獲器を開発し、市町村向けの販売を行う。

 対策によって過去10年で最大の被害規模だった14年の1億4248万円と比較し、20年は8184万円、21年は8682万円と20年以降は被害額が1億円を下回り続けてはいるが、依然として被害は大きい。県農林部農業支援課の担当者は「被害が平野の方に拡がっている中で、対策が追い付いていない地域もある」と話す。

 桶川市でスイカやトウモロコシを栽培する農家の小島元夫さん(77)も「最近はアライグマが増えた」と語る。知人の農家の中には、捕獲器で5、6匹のアライグマを捕まえた人もいるという。小島さんの畑でも獣害対策として農作物への網かけを行っているというが、「アライグマは網を破ってトウモロコシを取っていってしまう」と頭を抱える。

 中山間部ではシカやサルの被害も深刻だ。JAいるま野西部資材センター(日高市)の担当者によると「これまでアライグマとハクビシンしかいなかった所に、シカやサルが下りてきている」と言い、組合員から電気柵の購入依頼が増えていると明かす。「ネットや有刺鉄線で対策しても、向こう(鳥獣)が知恵を付け、いたちごっこの状態だ。電気柵を張った人は今のところやられていないと聞いている」。

 電気柵や捕獲器が対策に有効なことから、県農林部では、国の交付金を活用し、電気柵設置費用や地域の鳥獣捕獲活動を支援している。22年度は電気柵設置交付金に15団体が申請し、捕獲活動では13協議会に助成した。

 農業支援課担当者は「鳥獣害には地域ぐるみの対策が必要だ。研修会による人の育成や対策技術の開発・普及を通して地域を支援していく」と話した。

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