「おらがまちのLRTへ」 事業立役者の中尾常務 奔走8年、あす発車号令

車両基地の通信指令室で笑顔を見せる中尾常務=17日午後、宇都宮市下平出町

 開業を目前に控える次世代型路面電車(LRT)の宇都宮芳賀ライトレール線。運行会社宇都宮ライトレールの中尾正俊(なかおまさとし)常務(78)=広島市出身=は、同社設立時から事業推進に奔走した立役者だ。「路面電車一筋43年の集大成に」と挑んだ8年間。「新しい会社を生み出す苦労を味わった」と達成感をにじませながら、「いよいよ真剣勝負」と気を引き締めている。

 昨年11月の試運転初日、宇都宮駅東口停留場での光景が目に焼き付いている。LRTが入線すると観衆から拍手が沸き起こった。感激し「開業に向けて一生懸命頑張ります」と応じた。

 2015年11月、長年勤めた広島電鉄での手腕を買われ、宇都宮ライトレール取締役に就任。豊富な経験と知識から“路面電車の神様”と例えられるほど、業界では名を知られる。

 着任当初は、宇都宮市とのやりとりに頭を悩ませた。市は軌道や施設整備、車両導入の主体となるが、専門知識があるのは自分だけ。説明も一苦労だった。寝ても課題が頭に浮かぶ。枕元に置いたノートにひたすらメモした。「その日その日の宿題をしている感じ」だったが、徐々に市側の理解も深まり、今では頼れる存在だ。

 「人を大事に」というモットーで培った人脈が組織作りに生きた。運転士養成のための出向先の確保、広島電鉄による応援など、着々と組織を固めた。技術、運輸部門の要はタイミング良く他社で定年を迎えた知己のベテラン2人を採用した。

 「多くの方の協力があったからこそ、ここまで来られた」と感謝の気持ちがあふれ出る。「地元の人たちに愛着を持ってもらい、おらがまちのLRTにしたい」と青写真を描いた。

 開業後は運転士の役割が大きいと力説する。「少々時間がかかってもいい。笑顔で丁寧に対応を。そうすればまた乗りたいと思ってもらえる」

 開業当日は式典で発車号令をかける。「役目を精いっぱい果たしたい」と笑顔を浮かべた。今後はLRTに毎日乗るつもりだという。「お客さんがどう動きよるか。運転士の対応はどうか。見るところいっぱいですよ」。温かみのある広島弁がこぼれた。

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