社説:門川市長引退へ 困難な運営担った4期

 京都市の門川大作市長が、来年2月の任期満了に伴う市長選に立候補せず、4期限りでの引退を表明した。

 赤字財政や市バス・地下鉄事業の再建に一定の道筋をつけ、子育て支援に力を入れた。一方、市民負担の増加や補助金の削減などには厳しい批判も向けられた。

 門川氏は記者会見で、自らの市政運営について「10年、20年後に必ず評価いただけると確信している」と語った。

 高山義三氏(1950~66年)と並び、歴代最長となる多年の労をねぎらうとともに、残り5カ月余りの任期をしっかり全うしてもらいたい。

 少子高齢化による人口急減の波が日本を覆う中、全国でも、その先端にある京都市のかじ取りは一筋縄でいかない。145万の市民に向き合う直接行政は激務で、過去には病での退任も複数ある。

 「人好き」を自負する門川氏は頻繁に現場へ足を運び、顔の見えるトップにこだわりをみせた。感情に任せた言動はほとんどなく、施策を丁寧に説明しようとする姿勢は一貫していたといえよう。

 会見で「1人の人間が長い時間、首長を務めるべきではない」と退任理由を述べた。

 首長多選の弊害は大きい。長くなるほど施策や予算に精通する半面、好みの職員を重用したり、苦言を呈する人材を遠ざけたりする独善傾向にも陥りやすい。

 京都市は、前市長を含めると30年近く市教委出身者がトップにあり、圧倒的に少ない市教委職員の登用が目立つ面があった。門川市政後半は「いったん走ると止まりにくい市長に対し、ブレーキ役が不在」との声も聞かれた。

 典型は観光行政ではないか。訪日ブームで宿泊施設が不足すると、市長が先頭で誘致の旗を振った。本紙が誘致目標を既に超え、観光公害が市民生活を脅かしていると報じても、「富裕層向けホテルはまだ足りない」とした。

 最終的に「市民生活と調和する観光」へ軌道修正したが、遅きに失した感も否めない。訪日客が再び戻る中、修正効果が実感できないことは証左だろう。

 観光公害は渋滞や騒音にとどまらず、過度なホテル誘致などで市民と観光客の分断を生み、子育て世代の流出やオフィス不足を招いた「まちの空洞化」こそ本質であることを忘れてはなるまい。

 次期市長選では、門川市政の評価を軸に、思い切った観光政策など具体案で競ってほしい。

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