【坂東龍汰】現在の境地「名前だけが独り歩きをしないように」【『春に散る』&『バカ塗りの娘』インタビュー<後編>】

撮影/コザイリサ

坂東龍汰が出演する映画が2本、同時期に公開を迎える。

佐藤浩市と横浜流星がW主演を務める8月25日公開の『春に散る』ではプロボクサー役を、津軽塗が繋ぐ父娘の物語を描いた9月1日公開の『バカ塗りの娘』では同性の恋人との未来を模索する美容師役と、正反対とも言えるキャラクターを演じている。

そんな坂東のロングインタビューを前後編に渡って公開。 前編では『春に散る』の話題を中心に聞いたが、後編では『バカ塗りの娘』にフィーチャー。

堀田真由が演じた父の津軽塗の仕事を継ぎたいと願う主人公・美也子の兄で、逆に家を継ぐことを自らの意志で拒否したユウ演じた印象から、現在の俳優としての境地など、じっくり語ってもらった。

【坂東龍汰】映画『春に散る』&『バカ塗りの娘』インタビュー&場面写真

LGBTQだからとか、同性愛者だからとか、そういうことは関係なく

撮影/コザイリサ

――ここからは映画『バカ塗りの娘』のお話しを聞かせてください。こちらはいつ頃に撮影をしていたのですか。

昨年の9月ぐらいです。

――確かにその頃、SNSで金髪のお写真が上がっているのを見た記憶が。

そうです(笑)。『春に散る』のボクシング練習の映像を見ていたらちょうど金髪でした。

――ドラマ『ユニコーンに乗って』 (TBS系)の撮影が終わって、『春に散る』の撮影前に撮られていたんですね。演じられた主人公・美也子(堀田真由)の兄・ユウは、人物像として要素が多いキャラクターですよね。津軽塗という伝統工芸を営む家の長男で、家業を継ぐことを周囲に望まれながらも美容師をやっていて、同性愛者として自由に生きられる場所を求めてもいて。

最初は手探りのところもありましたけど、衣装合わせをして髪型や服装とか、化粧をすることが決まったりして、そういうところから少しずつ見つけていった感覚はあります。

ユウは父親と上手くコミュニケーションが取れていなくて、素直に自分の気持ちを話せないんです。家を継ぐ、継がないという問題もありつつ、たぶん父親が津軽塗と向き合っていたせいで、家族との時間が少なくて寂しかったんだとも思うんです。

なので冒頭のユウは、本来、自分が望んでいるような生き方ができていないんですけど、それが後半になるにつれて本来の姿に戻っていくので、そのグラデーションをお芝居で見せられたらとも思っていました。

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

――映画『フタリノセカイ』でもLGBTQの悩みを抱えるキャラクターを演じていましたが、前回の経験が本作でも役立つところはありましたか。

逆にそこをあまり意識過ぎないというところが役立ったかもしれないです。(ユウの恋人の)尚人(宮田俊哉)はユウにないものを持っていて、それでいてお互いに一緒に自由に伸び伸びと生きていける場所を探していて。

25、6歳の頃って、わりとみんなそういうことを考えたりすると思うんです。自分の行き場とか、やりたいこととか、目指すものとか。LGBTQだからとか、同性愛者だからとか、そういうことは関係なく、誰もが感じるようなことを2人も思っているだけだから、演じる上で特別なことはなかったです。

本当の家族といるみたいに気を遣わない人ばかりだった

撮影/コザイリサ

――現場の雰囲気はどうでしたか。

堀田ちゃんも、宮田さんも、本当に自然のままそこにいらっしゃるような方たちで、待ち時間に話している感じと地続きで撮影もしているような心地良さがありました。

(父親役の小林)薫さんとはぶつかるシーンもありますけど、カットがかかったら仲良くお話をさせていただいてました。

――今回、共演経験がある方が多いんですよね。

家族役の皆さんと共演したことがあります。堀田ちゃんは3回目、薫さんも2回目、(家族同然の付き合いをしている隣人の吉田のばっちゃ役の)木野(花)さんも2回目、(家を出た母親役の)片岡(礼子)さんも3回目で、僕的にはすごくアットホームな感じがあって安心しました。

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

――坂東さんから見て、堀田さんはどんな存在ですか。

ホントにしっかりしている方なので、今回、僕はお兄ちゃん役で、実年齢も僕の方が1つ上なんですけど、年上に感じます(笑)。

――お2人の兄妹の雰囲気がとてもいいなと感じました。2人の間ではちゃんとお互いをわかり合っているというような。

堀田ちゃんとは今回の撮影で久しぶりに会ったんですけどそんな感じが全然しなくて、他愛もない近況報告なんかをするうちに、気付いたら初日の撮影が終わっていたような感覚でした。

ユウが美也子の髪の毛を切ってあげるシーンがクランクインだったんですけど、髪を切るというアクションがあったことも良かったのかなと思います。

――宮田さんとは初共演でしたよね。

僕の想像していた通りの、優しくて、おっとりしていて、すごく周りに気を遣ってくださる方でした。一緒にお芝居をしていても心地良かったです。

お芝居についてはあまり話さなかったですけど、本当に他愛のない話をずっとしていました。堀田ちゃんと薫さんも交えて、「昨日は何食べた?」とか「このあたりで美味しいお店ある?」とか。先ほども言いましたけど、本当の家族といるみたいに気を遣わない人ばかりだったのでリラックスしていましたね。

子供のときにいい習慣を身に付けさせてもらった

撮影/コザイリサ

――青森で撮影をされていたそうですが、どんな印象が残っていますか。

東京から飛行機で青森に行って、降り立ったときの空気のキレイさは圧倒的でした。空も広いし、夕日もキレイで、何と言っても食べ物もお酒も全部美味しい(笑)。

通い詰めたお蕎麦屋さんがあったんですけど、そこの海老天の味が忘れられないです。あとは薫さんと居酒屋で一緒に食べたハタハタも本当に美味しくて感動しました。

――小林さんと一緒にご飯に行く時間などもあったのですね。

たまたま行ったお店に薫さんが先に来ていらっしゃったので、一緒にカウンターに座って食事をさせてもらいました。気付いたら薫さんは酔っぱらっていて、先に帰られていましたけど(笑)。

僕は、ちょうど次の日に青森を車で周ってみようと思っていたので、白樺の林とか、お勧めの場所をいろいろと教えていただけたのも良かったです。

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

――本作は「津軽塗」の素晴らしさを伝える側面もありますが、今回、津軽塗や伝統工芸に実際に触れてみた感想を教えてもらえますか。

実は、うちの母が漆塗りの器を収集していたので、実家に結構いっぱいあったんです。お正月になるとそれを引っ張り出してきて、おせち料理とかを食べる習慣がありました。

毎回、母から「私にとって大切なものだから、食べ終わったら放置しないですぐに洗って」と言われて。スポンジじゃなくて、布みたいのでしか洗っちゃダメで、洗い終わったらすぐに水をふき取ることを徹底されられました(笑)。

それを子供たちみんなでやるっていうのが我が家の文化としてあったので、津軽塗の名前は聞いたことがありました。

今回、そうやって自分が小さい頃から使ってきた器がどう作られているのかを、この映画を通して知れたのはいい機会でした。なぜ母があんなにこだわって大切にしていたのかわかった気がしました。

――そういうものに子供の頃から触れられるっていいですね。

当時は当たり前と思っていましたけど、社会に出て一人暮らしを始めてみると、そんなものを使う余裕はないし、「あれは特別だったのか」と。子供のときにいい習慣を身に付けさせてもらったと感じます。

いつか違う形で未来の自分を助けてくれる日が来る

撮影/コザイリサ

――『春に散る』ではボクシング、『バカ塗りの娘』ではLGBTQのことなど、過去に演じたキャラクターが今の自分の助けになっていると感じることはありますか。

最初の頃と比べたら、間違いなく積み重ねてきた経験が今に生かされていることを感じます。例えば、ボクシングをやっていなかったら、大塚役はできなかったと言っても過言ではないし、『フタリノセカイ』をやって、自分の中にいろんな影響があったからこそ、すぐに入ってくるものがあったとか。

これからも今までやったことのないような役を演じていくとは思うんですけど、それがまたいつか違う形で未来の自分を助けてくれる日が来るんだろうなと思います。それだけに、1個1個、どんな役も大切にしなきゃと感じます。

――3年前にインタビューをさせていただいたとき、坂東さんが電車を使って一人で現場まで来たとお話していたことがとても印象に残っているのですが。

今も一人で電車移動しますよ(笑)。

――そうなんですか! とはいえ、ここ数年での周囲の環境の変化はとても大きいのではないでしょうか。

周りの変化は感じます。やっぱりドラマを観ている人の数ってすごいものがあるんだなって。しばらくドラマ出演が続いていたこともあって、街を歩いていて気づかれたり、話しかけられたりすることは増えました。

だからこそ、そこに置いていかれないようにしなきゃとは思います。“坂東龍汰”という名前だけが独り歩きをしないように、そこに追い付こうという気持ちで頑張っています。

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

――作品に対する役の比重や、それに伴う責任感なども増えていますよね。

そこは役が大きくなるのに比例して自動的に増えていきますね。もちろんプレッシャーを感じることはありますけど、根本的には「楽しもう」という気持ちを持ってやっています。

役が大きくなるということは、表現できることが増えるということでもあるので、いろんな表現を試せる場所があることには本当に感謝しています。現場にいる時間が増えれば、いろんな方たちから刺激を受けることも増えますし。

一つひとつの役と長く一緒に居られるという意味ではやりがいを感じますし、うれしいことです。


今回の取材は2作品分のお話を聞くために、それぞれ別の日にインタビューをさせていただきました。日程の都合上、結果的に2日間連続でお話を聞くことになったのですが「明日もよろしくお願いします!」「今日もありがとうございます!」と、2日間とも朗らかで明るい坂東さんからたくさんのお話を聞くことができました。

闘志あふれるボクサーと、将来への悩みを抱える美容師という全く違う雰囲気を纏う坂東さんを、ぜひ映画館の大きなスクリーンで堪能してください。

作品紹介

映画『春に散る』
2023年8月25日(金)より全国公開

映画『バカ塗りの娘』
2023年9月1日(金)より全国公開

(Medery./ 瀧本 幸恵)

© ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社