坂東龍汰が出演する映画が2本、同時期に公開を迎える。
佐藤浩市と横浜流星がW主演を務める8月25日公開の『春に散る』ではプロボクサー役を、津軽塗が繋ぐ父娘の物語を描いた9月1日公開の『バカ塗りの娘』では同性の恋人との未来を模索する美容師役を演じている。
正反対とも言える2つのキャラクターを、同時期に映画館で見ることができるのだが、本人に撮影時期を聞いてみると昨年の秋・冬に連続して撮っていた作品だとも言うから、そのふり幅の大きい演技力にも驚かされる。
そんな坂東のロングインタビューを前後編に渡って公開。前編では『春に散る』にフィーチャーし、横浜が演じるボクサーの翔吾の前に立ちはだかることになる、東洋チャンピオンのタイトルを持つ大塚俊を演じた印象や、“夢”を追いかける人への想いなどを聞いた。
【坂東龍汰】映画『春に散る』&『バカ塗りの娘』インタビュー&場面写真
新しいことを始めるとハマっちゃう
――2022年の4月期に放送されたドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日系)でもボクシング部の高校生役を演じていましたが、本作への出演はいつ頃決まったのですか。
『未来への10カウント』が終わって、ボクシング指導をしてくださった松浦(慎一郎)さんと「またボクシングの仕事で一緒になりたいね」という話をしながら、プライベートでよく一緒にボクシングを観に行っていたんです。そんなときに、突然、今回のオーディションに呼ばれました。
――ボクシングは『未来への10カウント』のときが初めてですか。
初ボクシングでした。2022年の1月くらいからやり始めて、めちゃめちゃハマりました(笑)。それまで格闘技には全く触れたことのない人生でしたが、やってみたらすごく楽しかったです。
――なぜそんなにハマったのですか。
何だろうな……。でも、基本的に僕、新しいことを始めるとハマっちゃうんです。極めたくなる。その感じで気づいたらボクシングも毎日ジムに通うようになっていました。
『みらてん(未来への10カウント)』の期間は、準備から含めて半年間くらい「いつでもジムに行っていいよ」と言われていたので、1日6時間とかジムで汗を流してました。
それで、いざ撮影が始まると、やりすぎちゃってムキムキになっていて。高校生なのに異常に身体が大きくなっていました(苦笑)。けど、そのおかげで大塚役を演じることができたので、やっておいて良かったなと思います。
今はもう、普通の体型の役が続いてることもあって、すっかりやめてしまって戻ってます。逆にあの体型のままだと服がパンパンで着れなくなってしまうので。
ボクシングシーンですべてを語るしかない
――本作の撮影は昨年の秋・冬ごろだったそうですね。
11月半ばくらいからでした。だから昨年は、ボクシングを年明け早々に始めて12月ぐらいまでの約1年、ずっとやっていました。
――ただ『未来への10カウント』のときは高校生役で、ドラマなので基本的にテレビやスマートフォンなどの小さな画面で観られていましたが、本作ではプロ役で、さらに映画館の大スクリーンで観られるので、また違う要素も必要だったのではないでしょうか。
まさにその通りです。『みらてん』の時も、僕自身はこだわりを持ってボクシングシーンに臨んでいましたけど、やっぱり映画館とテレビでは見え方が全然違うし、そこから先に見えてくるものも違うと思いました。
しかも大塚は東洋チャンピオンですから。「これからプロテストを受けます」みたいな役だったらまだいいですけど、「それって、この間、僕が観に行ったタイトルマッチをしている人たちと一緒ってことだよね」って、なりました(苦笑)。
とは言っても、僕は自分にできることをやるしかないので、また身体づくりから見直して、ボクシングの見せ方も松浦さんと1から話し合って作っていきました。
――しかも大塚ってセリフが少ないですよね。心情も他のキャラクターが誰かに伝える形で明かされたりもするので、自分の言葉で伝えることもなくて、そういうものもすべてボクシングを通して見せていくようなところがあって。
ホント、そうなんです。脚本を初めて読んだときに「これはボクシングシーンですべてを語るしかないな」と思いました。
ただその分、ト書きがすごく丁寧に書かれていました。一つひとつ、ここで大塚がどうなるっていうのが読んでいて良くわかって、この場面を瀬々監督がフォーカスしてくださっていることも伝わってきました。
読み終えたあとには実際に1試合を終えたような気持ちになれて、それと同時に、想像した試合を自分が体現するのかと思うと、またこれはどうしたものかと悩みました(苦笑)。
――資料に、ボクシングシーンは最初に動きを全部決めて、それを再現しながらそこに感情を乗せて表現していくと書いてあって、これは大変そうだなと。
ボクシングは感情のスポーツなんです。だから泣けるんです。実際の試合を観に行ったときも、リングの上で戦っている人の背負っているものや、今置かれている立場とかが見えてきてすごくドラマがあるんです。
ボクシングは観ている側の人の気持ちもドラマチックにしてくれて、僕はそこが好きなところでもあるんですけど、松浦さんは本当にその部分を大切にしてくださるんです。
それは『みらてん』のときからそうでしたけど、「僕が作った手でやりづらいとか、感情が途切れてしまうとかがあったらすぐに言ってほしい」と言ってくださって。
それに、脚本をめちゃくちゃ読み込んでいて、時々、僕の方からそのときの大塚の感情を聞いてしまうくらい、いろんな角度からキャラクターを捉えられていました。ボクシングシーンは松浦さんを信頼して、基本的にすべてをお任せしました。
流星くんだから僕も本気で向かっていけた
――実際に、横浜流星さんが演じる翔吾とボクシングシーンを撮影してみた感想は?
翔吾と大塚にはスパーリングと、試合と、ボクシングシーンが2回あって、スパーリングの方は練習と変わりないというか、ヘッドギアを付けているので顔も殴れますし、殴られますし、結構本気でできるんです。
普段から松浦さんと1日に3、4ラウンドのスパーリングはやっていたので、カメラが回っている1、2分の出来事であれば、その瞬間にすべてを残したいという想いもあって、わりと本気の殴り合いをしました。
けど、試合のシーンはヘッドギアが無くなるので、急に無防備感が出てきて怖かったです。「もし当てたら(横浜の)鼻が折れるな」とか、自分も当てられたら折れるなとか考えてしまって。だから最初の方はかなり身体が硬くなっていたと思います。
いつも伸び伸び打っていたジャブが、伸びきる前に止まっちゃうみたいな。何とかリラックスしなくちゃって焦っていました。さらに、これが映画館の大きなスクリーンに映し出されるんだなとか、余計な想像がどんどん頭によぎってしまって。
――考えなくていいことまで。
ホント、最初はヤバかったです(苦笑)。ただそれも、徐々にカットを重ねてく中で消えて、後半はもう、カメラが回っていることも忘れるくらいに集中していました。僕と流星くんとの阿吽の呼吸のような、見えない会話が結構長く続いていたかと思います。
それから、撮影方法にも気を遣ってくださって、先にリングの上のシーンからまとめて撮ってくださったんです。それもすごく助かりました。おかげで最後まで集中力を途切れさせることなくできました。
――ボクシングシーンはお互いに対する信頼がないとできないと思いますが、そのお相手の横浜さんはどんな存在でしたか。
流星くんは「何でも来い!」っていう感じがあるんです。僕のパンチなんか受けたって死なんぞっていう覇気みたいなものを常に出してくれていました。最初は力が入っていたものの、最終的に伸び伸びと試合ができたのは流星くんのおかげだと思います。
なんて言うんでしょうね、流星くんも(中西利男役の)窪田(正孝)くんも基本的な運動神経が違うというか、持ち合わせた筋量が違うというか、馬並みというか(笑)。僕は動きもそうだし、猿っぽいけど、2人はもう筋肉の色や質から違います。
本来ならば、僕のチャンピオン役の立場が主演の流星くんをリラックスさせてあげて、いくらでも打ってきていいよっていうスタンスでいなくちゃいけないのに、逆になっていました(苦笑)。
ただそういう流星くんだから僕も本気で向かっていけたし、結果的に画で観ると、パワーバランス的には大塚の方が強そうに見えてもいたので、もしかしたら流星くんはそこまで計算して、そういう感じを出してくれていたのかもしれません。
「今しかねえんだよ」という気持ちはすごくわかりました
――何度も観返したくなる素敵なシーンでした。ご自身で完成作を観たときはどう思いましたか。
自分で「こうだった」とジャッジするというより、観てくださった方に「どう受け取ってもられるんだろうか」という想いが大きいです。もちろん乗せた気持ちが伝わればいいなと思ってやっていましたし、自分の全力は尽くせたと思っているので、あとはどう受け取ってもらえるのかが楽しみです。
――クライマックスの翔吾と中西の試合はもちろん見応えがあるのですが、大塚との試合があったからより感動することもありました。
確かに、大塚との試合から、中西との試合へのちょっとしたバトンの受け渡しみたいな場面があって、僕としては超胸アツでした。
翔吾が練習中に、中西との試合のときに大塚の動きを織り交ぜていきたいという話をするんです。僕ではなくて松浦さんが考えた動きですけど(笑)、そのシーンを観ているときは大塚と同化して、めっちゃうれしくて泣きそうになりました。
――本作ではキャラクターたちのいろんな形の“夢”との向き合い方が描かれていると感じました。例えば、翔吾であれば、“夢”がなければ死んでいるも同然という考え方であったり、仁一(佐藤浩市)であれば、一度捨てた“夢”を諦めきれずに再び“夢”の世界に戻ってきたり、健三(片岡鶴太郎)であれば、諦めた“夢”とはまた違う“夢”を見つけたり。坂東さんはどのキャラクターの“夢”との向き合い方に共感しましたか。
それで言うと、翔吾に共感します。もし自分があの立場に置かれたことを考えると「今しかねえんだよ」という気持ちはすごくわかりました。僕もたぶん同じように言うと思います。その瞬間にしか生きられないことって絶対にあって、来年じゃダメだし、来週でもダメだし。
けど、そうは思っていても実際にできないこともあるからこそ、より翔吾に共感するんだろうなとも思ったり。今後、僕が大きなケガや病気を絶対にしないとはいい切れないし、もしそうなったときに自分はどうするんだろうな?と。
「この作品にすべてをかけてもいい」と思いながら撮影している中で、自分はどこでストップをかけられるんだろうか?とかを想像すると、翔吾のセリフにはすごく共感できるものがありました。
きっともっと年を重ねていけば、仁一や健三の気持ちも汲めるようになるんだろうなとも思いますけど、今はやっぱり翔吾ですね。
でも大塚と一緒で、新しい選択をすることも頭の片隅にはおいて生きています。役者以外の職業をしている自分を全く想像していないわけではないです。その上で、翔吾のように夢と向き合えたらと思っています。
*(後編に続く)後編では『バカ塗りの娘』でのエピソードを中心に、現在の俳優としての境地など、坂東さんのパーソナルにも迫るお話を聞いています。
作品紹介
映画『春に散る』
2023年8月25日(金)より全国公開
映画『バカ塗りの娘』
2023年9月1日(金)より全国公開
(Medery./ 瀧本 幸恵)