<レスリング>【特集】世界選手権が国際大会デビュー! 彗星のように出現した原田真吾(ソネット=男子グレコローマン72kg級)が歴史に名を刻む!

 

(文・練習撮影=保高幸子)

 2023年世界選手権(9月16~24日、セルビア・ベオグラード)の男子グレコローマン72kg級の代表の座を勝ち取ったのは、今年初めて全日本レベルの大会の優勝を果たした新進気鋭の原田真吾(ソネット=今春、育英大を卒業)。昨年まで全国タイトルを獲得したことはなく、今回の世界選手権が国際大会デビューとなる。

▲初の世界選手権、と言うより、初の国際大会に向けて練習に余念がない原田真吾(ソネット)=8月初旬、群馬・草津

 原田は、中学までは柔道選手。高校進学を控えても体重が50kgしかなかったため、最軽量級でも60kgが必要となる柔道に夢を見ることができなかった。柔道部顧問から「レスリングは50kg台の階級もある」と教えられ、神奈川・釜利谷高校に進んでレスリングを始めた。

 インターハイには出場できなかったが、2017年の愛媛国体では少年グレコローマン55kg級に出場し、5位に入賞している。この頃にはグレコローマンを専門でやりたいと決め、神奈川・向上高校の先生から「群馬の育英大学にいい先生がいる」と紹介され、練習を見に行った。

 「部員数は少なかったけど、柳川(美麿)先生、富塚(拓也)先輩に会って、ここでやろうと決めました」-。

着実に実力をつけた大学時代だが、最後に前十字じん帯断裂

 育英大に進学し、2年生で東日本学生秋季選手権・新人戦、3年生で東日本学生春季選手権でそれぞれ優勝するなど(ともに72kg級)着実に実力をつけ、4年生だった昨年は全日本学生選手権77kg級で3位に入るなど健闘した。しかし、直後に前十字じん帯断裂で手術することになり、その後は試合に出場することはかなわなかった。

▲全国優勝ではなかったが、2020年東日本学生秋季選手権・新人戦で初の“優勝”を経験

 卒業で選手生活を引退し、普通に就職することも考えにあったが、レスリング7年のキャリアでやっと手ごたえを感じた矢先、悔いが残ったままレスリングを離れることはできなかった。

 「まずは72kg級で全日本を獲りたい」という思いを抱き、働きながら育英大でレスリングを続けることにした。半年ほどのリハビリののち、今年4月に行われたU23世界選手権代表予選会で復帰。ここで3試合に勝って代表の座を勝ち取れた。

 ブランク明けは、けがをする前と比べれば気持ちが落ちてしまっていた部分はあった。それでも「練習内容に自信があったし、(松本)隆太郎コーチにも『優勝できるところにいる』と言われたので、できると思っていました」との太鼓判をもらい、6月の明治杯全日本選抜選手権は自信を持って臨むことができた。

 元オリンピアン(井上智裕)や学生王者(春日井湧雅)を下し、レスリングのキャリアで初めて全日本レベルの大会で優勝。世界選手権代表決定プレーオフでも、昨年の代表(堀江耐志)勝利し、シニア世界選手権の代表権を手にした。

▲得意技は豪快なリフト技。6月の明治杯全日本選手権の決勝でも爆発させ、見事に優勝=撮影・矢吹建夫

負傷でレスリングを離れ、「全体を見渡すことができた」

 躍進の要因を聞くと、原田は「けがをする前は、レスリングの練習しかできていなかったから」と答えた。筋力やバランスの強化できていなかったと言う。それが、リハビリ中に「ふだんはできなかった部位を強化したことで、けがをする前よりも動けるようになった」と言う。弱かった下半身をメインにしたリハビリとトレーニングにより、バランスが良くなり、もともとの強みだった上半身と同じレベルで勝負できる下半身を手に入れた。

 また、実践ができない分、細かい技術指導を受けてノートに書き、イメージトレーニングなどにも時間を割いた。レスリングから離れなければならなくなったことで、「全体を見渡すことができた」と分析。強みであるパワーにさまざまな”スパイス”が加わることで、進化できたようだ。

▲日体大や自衛隊のハイレベルの中でもまれた今夏。世界選手権で成果を出せるか=8月初旬、群馬・草津

 世界選手権デビューについては、「国際大会にも行ったことがないし、全日本も一回しか優勝していないので…」と控えめながら、「グラウンドは俵返し、スタンドは相手の腕をたぐったり、差しからの引きだったりが得意。俵返しは富塚コーチから教えてもらった技。グラウンドには自信があるので、パーテールポジションを取れば返せる。優勝を目指して頑張ります」と心強い言葉。

 「今、自分のやっている技をもう一回見直し、技のつなぎの種類だったり、1つ違う技を取り入れたりしてみて、さらに自信をつけていきたい」と準備に勤しんでいる。

 この勢いで世界選手権でも躍進し、2023年を飛躍の年として自身の歴史に刻みたい。

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