トラブル続きの「マイナ保険証」 現状と課題 医療機関の受け止めは規模で “差” 今さら聞けない⁉ 使い方の説明も

健康保険証をマイナンバーカードに一体化させた「マイナ保険証」の現状と課題について、広島市内の医療機関で取材しました。

本格運用がスタートしてから2年近くが経つマイナ保険証。まだ使ったことがないという人も多いのではないでしょうか。ことし2月からマイナ保険証の受け付けを始めた広島市西区の梶川病院で使い方を教えてもらいました。

光仁会 梶川病院 松元新八 課長
「こちら、受付機がございます。所定の場所にマイナンバーカードを置きます。すると自動でこのように本人確認をするような表示が出ますので、ここで、自分の顔で確認するか、もしくは、暗証番号で確認するかを選択いたします。ここでは一応、顔の方を選ばさせていただきたいと思います。そうすると、このようにカメラの方に顔を入れるような表示になりますので、実際、私の方の顔を…。そうすると、すぐに確認ができまして、そうすると今度は過去のお薬の情報などを利用するかどうかというふうな選択になります」

40歳以上の場合は過去の健診情報についても利用するかどうかをカードの画面上で選択することができます。

松元課長
「マイナンバーカードを使うことによりまして、データが自動的に電子カルテの方に入ります。ただ、もしこれが普通の保険証でありますと、こちらの方から『保険証をお持ちですか?』という声をかけ、ご提出いただいて確認した後で念のためにコピーをとります。さらには、そのコピーを基に電子カルテの方に手入力で全てのデータを入力すると。作業が減りますし、また、手入力によるミスをなくすこともできると。いちおう、そういうふうな一面がございます」

マイナ保険証を使っている人に感想を聞いてみました。

マイナ保険証を使用の患者
「1年ぐらい前ですかね、割と早く手続きだけしました」

― 使ってみてどうですか?
「便利はいいですよ。どっちにしてもね、進歩するためには要るわけだからやっていかなきゃしょうがないと思いますよ」

こちらの病院では、患者全体の2割から3割程度がマイナ保険証を使っています。全国各地でトラブルが相次ぐ中、「まだ様子見」という人が少なくないようです。

マイナ保険証を未使用の患者
「使うとらん。まだ作っとらん」

― 理由は何ですか?
「別に。今、ごたごたしとるじゃろ、間違えたじゃ、どうじゃ。ああいうようなのがちゃんとね、きちっとスムーズにいくようになってからでもええかなと思って、別に。『来年の秋まで』と言いようるんじゃろ。それまでに作るわいね」

国は、来年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針です。こちらの病院では、「事務手続きの負担軽減やミスの防止、医療の充実につながる」として歓迎しています。マイナ保険証を巡るトラブルは、今のところ、有効期限切れのため受け付けができなかった1件だけだそうです。有効期限はマイナンバーカード自体が10年。保険証として使うのに必要な電子証明は5年となっています。

松元課長
「おそらくデジタル化、医療DXなんですけれども、進めていく上で何かしらのデータに関するトラブルというのは、間違いなく、つきものではございます。ただ、それと同時に、それに対するセキュリティー対策というのを高めていくというのも当然ながらどこの国でもやっていらっしゃることですので」

ただ、広島市では、マイナンバーカードを巡るセキュリティーへの不安などから、市民のカード自主返納が相次いでいます。集計を始めた5月から7月までの3か月で216枚となっています。

広島市 松井一実 市長
「健康保険証の利用にまで、このマイナンバーカードがうまくいくようになれば、医療提供などについても、より充実したものができる。起こっている、こういった実態をきちっと処理し、解消して制度の信頼確保を」

マイナ保険証を巡る不安は医療機関にもあります。広島県保険医協会は今月、県内の1381の医療機関を対象にアンケートを実施し、これまでに192件の回答を得ました。

それによるとマイナ保険証の導入によって受付業務の負担が「増えた」という医療機関が83.9%に上っていて、「減った」の6.8%を大幅に上回っています。

広島県保険医協会 堂垣内あづさ 事務局長
「単純に番号を入力するとか、そういうことの事務負担の軽減はいくらかの医療機関の回答の中にありますけれども、やはりそれ以上に国の説明の不足であったりとか、高齢者の方が今、増えていますので、そういった方の説明にかかる事務負担」

山間部や島しょ部にある診療所を中心にこんな声が寄せられています。

医療機関アンケートの回答より
「患者への説明が長い人は5分くらいかかる。実用的ではない」
「通信環境が悪いとカードリーダーが使用できなくなり、手間」
「訪問診療がメインのため、そもそもオンライン資格確認が不可能」

堂垣内事務局長
「ドクターが1人とスタッフが1人、こういった中でやっているような診療所もたくさんあるわけなんですね。で、もうそこで、たくさんお金がかかるマイナンバーカードのシステムを構築して、高齢者の患者さんがたくさんいる中で混乱する対応をしていくっていうのは医療機関にとっては診療以外の負担が大きく増えたっていうことになります」

顔認証付きカードリーダーなどマイナ保険証のシステム導入については、国からの補助も受けられますが、一定の初期費用のほか、維持管理費も必要となります。梶川病院では初期費用がおよそ170万円かかったそうです。

松元課長
「今、不安視されているようなことは徐々に解消されていき、ただ、その一方で、おそらく新しい問題も発生しますが、それをこなしていくというふうな、そうした技術の革新というふうなことは今後、進めていく必要があるかとは思っております」

堂垣内事務局長
「後付けでいろんな対策を講じても結局、今、健康保険証を1人ひとりが持っているわけですから、それを継続して使用するという形が一番コストもかからないし、混乱を生まないで済むということだと思います」

マイナ保険証の主なメリットとデメリットをまとめました。

メリットとしては、▽患者が過去の履歴に基づいてより適切な診療や投薬を受けることができる、▽医療機関は健康保険証のコピーやデータの手入力など事務手続きを減らせる。デメリットとしては患者・医療機関ともに▽トラブルが発生した際に利用できない、▽個人情報の漏えいのリスクがある、といったことが挙げられます。このほか、小規模な診療所にとっては初期費用や維持管理費、患者への説明の負担もありそうです。

青山高治 キャスター
「そういった医療機関の負担を減らすためにもメリット・デメリットのベースの部分もある程度理解しておいて、様子を見るなら様子を見るとかもあると思うんですが」

中国新聞社 報道センター文化担当記者 桑島美帆 さん
「全てスムーズにいくという前提であればとっても便利だと思うんですけど
デメリットもけっこうな重さでのしかかっていますよね。トラブルも相次いでいるので」

中根夕希 キャスター
「不安はありますよね。ただ一方で、ずっとこのままコピーをとって手作業で進め続けるのかとなると、それもまたどうなんだろう。デジタル化って進めなくてもいいのかと思う所もあるので、これは難しい問題」

小林康秀キャスター
「『トラブルは付きもの』という話はありましたけれども、患者にとっては本当に使えなくなったら困る。健康保険証だったら大事なものは記載されていますが、
マイナ保険証には書いてないですからね。健康保険証は初めて行く病院には持って行った方がいいんじゃないかと個人的には思ったりします。みなさん、考えてみてください」

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