林業・木材産業は融資対象として有望な「成長可能産業」~ 独立行政法人農林漁業信用基金・𠮷村洋総括理事 独占インタビュー ~

世界的に脱炭素の取り組みが進む中で、林業や木材産業が注目を集めている。しかし、林業・木材産業は裏付け資産に乏しい事業者が多く、金融機関でも事業や支援制度への理解が進んでいない現実もある。
林業・木材産業の事業者を対象に「林業信用保証」を手掛ける独立行政法人農林漁業信用基金(TSR企業コード:295795883、東京都港区)の𠮷村洋総括理事に、業界の現状や新たな取り組みである「将来性評価」について、東京商工リサーチが聞いた。


インタビューに応じる𠮷村総括理事

―信用保証の対象は

森林をフィールドとして、植樹から伐採して丸太にするまでの林業と、丸太を建材や資材、あるいは紙の原料や燃料に加工する木材産業を保証対象にしている。きのこや木炭、苗木の生産なども広義の林業に含まれ、保証対象だ。林業・木材産業の発展のお手伝いをすることで森林の機能を高め、国民生活にさまざまな便益がもたらされるようにという観点から保証を提供している。

―林業の現状について

かつてほぼ100%だった木材自給率は、戦後復興や高度経済成長に伴う木材不足で輸入を自由化して以降低下が続き、一時は2割を下回った。その後、森林資源の充実や技術開発の進展、環境問題への注目などから林業の見直し機運が高まり、近年は4割を超える水準まで回復している。こうした状況下でウッドショック(※1)が発生した。ただ、木材不足や価格高騰の中でも原料を安定的に調達し、価格転嫁もできた事業者は収益を上げた。一方で、そうでない事業者はかなり厳しい状況に置かれ、金融債務のリスケが必要になるなど、明暗が分かれた面もある。
林業信用保証における代位弁済の件数としては、ゼロ・ゼロ融資など政府の支援策の充実により、近年は相当低位で推移(※2)していた。だが、まだまだ低い水準ではあるが、2021年度から2022年度にかけて、さらには足元でも増加基調に転じている。

―林業・木材産業における産業構造の変化は

林業の新規参入者や就業希望者は、若い方々を含めて一定数が確保されている。木材産業の事業者数は緩やかな減少傾向で推移するが、大規模事業者の割合(※3)は上昇している。あまりグローバルな印象を持たれないが、丸太は国際商品であり、体力を強化して厳しい国際競争を勝ち抜くため大型化が進んでいる。だが、中小・零細事業者にも、地場への供給や少量多品種生産といったニーズがあり、苦しい経営の中で頑張っている。

※1 林野庁のデータによると、製材の輸入平均単価は3万8,604円/㎥(2021年1月)、8万149円/㎥(同年12月)、5万7,710円/㎥(2023年5月)と推移している。
※2 代位弁済先数の推移は2019年度18、2020年度15、2021年度6、2022年度上半期7。
※3 森林・林業白書によると、2004年から2021年の期間で、国産原木消費量1万㎥以上の製材工場は19.8%増、1万㎥未満は59.8%減だった。

―林業信用保証には一般的な信用補完制度における信用保険がなく、信用保証しかない

農業や漁業にはもともと系統組織の金融機能があったが、林業・木材産業にはなく、民間からの資金調達が非常に重要だった。そうした中で、事業者が円滑に資金調達を行うために保証機能が必要だった。信用保険機能は持たないが、独立行政法人としてできるだけ収支を均衡させ、国民の負担を仰がないよう、基本的には我々が最終的なリスクを覚悟して保証を提供している。

―都道府県の信用保証協会では「伴走支援」という言葉がよく使われている

中小企業庁や保証協会が、人材派遣や経営アドバイスといった伴走型支援に力を入れていることは承知している。ただ、東京の拠点1つしかない我々が、全国の事業者のもとに直接お邪魔して、というのは現実的ではない。
まずは融資機関と連携して財務状況などを共有し、業績改善に向けた意見交換をする。事業者が技術面や販路面、あるいは原料調達の面で悩んでいれば、我々の全国規模のネットワークを活かし、融資機関経由で情報提供もできる。主なネットワークは、農林水産省林野庁や各都道府県の行政、事業者団体などだ。全国木材産業組合連合会(全木連)や全国森林組合連合会、全国素材生産業協同組合連合会などの団体とは、意思疎通や情報共有を心がけている。

―林業・木材産業に注目が集まる中、融資や保証の取り組み姿勢に変化は

個別レベルで目に見えて感じてはいないが、これは、林業信用保証制度の認知度がまだ充分ではないからだとも思う。制度を知らず資金調達の機会を逸してしまう事業者を少なくするため、融資機関中央団体との意見交換を始めている。林業・木材産業には重要な役割と意義があり、融資対象として検討する価値のある成長可能産業で、融資の際には林業信用保証を使っていただきたい、という三段構えで普及活動を展開している。事業者だけでなく、融資機関のビジネスチャンスや融資先の開拓にも繋がるお手伝いができれば、と思っている。

―「将来性評価」の取り組みを始めたと聞く

2020年7月に、新規創業を対象に将来性評価の試行を始めた。その後、他業種からの新規参入も対象とし、試行錯誤しながら今日に至る。新規創業や新分野進出では、林業・木材産業に関する財務情報がない中で、計画書にある事業者の経営ビジョンや技術力・ノウハウ、地域での関係者とのネットワークなどが特に重要になる。融資機関が添えた意見も踏まえ、総合的に判断している。

―借入資金の用途は

設備資金もあるが、運転資金がかなり多い。事業拡大に向けた運転資金もあれば、安定的に経営しているが入金までのつなぎ資金が必要なケースもある。

―保証先の経営悪化の際の対応について

事業者の経営状況に変化が生じてきた段階で、まず融資機関から予見通知をいただき、フォローの方法を検討する。返済が滞る事態になれば事故報告を受け、融資機関に原因を調査していただいた上で立て直す術を相談する。相当程度、経営状況が悪化した場合は、倒産に至る前に中小企業活性化協議会やメインバンク主導で再生支援の枠組みをつくり、返済期間猶予や返済額の減免など、事業継続に向けた条件変更に柔軟に対応しながら、コスト削減や収益拡大に向けた提案も行っている。

―代位弁済について

一般的な信用保証協会と同様、我々の債務保証額については、融資機関の管理に問題がなく、やむを得ない事情があるのであれば、合理的と認められる金額は全額弁済する。だが、事業者のためにも安易に代位弁済とならないよう、まずは融資機関としっかり連携して期中管理をする。どうしてもやむを得ない場合は、迅速に融資機関に対して代位弁済し、その後、事業者の事情も踏まえながら返済していただくことになる。

―林業・木材産業に特化した事業再生の専門家は限られる

だからこそ、まずは期中管理や情報提供をしっかりして、経営破たんしないように努力していくことに尽きるのではないか。また、林業・木材産業には、森林の機能を高め、炭素固定に貢献するという公益性がある。国や都道府県が政策で手厚く支援する中で、我々ならではの専門的な情報提供も通じ、経営を下支えしていくことが重要だ。

―これまで治水や環境問題の面から語られていた林業の産業化へのターニングポイントは

2001年の森林・林業基本法で、森林の持つ多面的機能を維持するには林業生産活動が営まれることが重要で、そのためには木材産業が発展し、木材が利用される必要があるという基本的な政策方針が示されている。今は当時よりも森林資源が格段に充実し、技術開発や制度改革も進み、SDGsやカーボンニュートラルなど国際的な関心も高まっている。そういった中で木材や林業・木材産業に注目が集まり、そこにウッドショックが拍車を掛けたのではないか。

―収益性や生産性が諸外国に比べて弱い

我々はよくオーストリアをライバルとして比較する。地形や森林の所有構造が似ているにもかかわらず、オーストリアの木材は輸送費を含めても国産材と同等、もしくはそれ以下の値段で勝負ができ、かつ利益を出せているからだ。政策的な話にはなるが、オーストリアには森林所有者を取りまとめる機能があり、生産コストや流通コストを低く抑えられる。一方で、日本はエンドユーザーまでが多段階な構造となっており、結局分配できる収益が少なくなっている。効率的な伐採・造林や、流通構造の効率化に取り組んでいく必要がある。

―林業・木材産業の今後について

カーボンニュートラルやSDGsなどの国際的情勢も背景に、林業に対する注目は高まっている。こうした中で、林業・木材産業は世の中の役に立ち、上手く経営できれば収益も上がるという姿を見せていくことが重要だ。
また、大事なのは、やはり木を使ってもらうこと。今まで、木材の主な利用先は住宅と紙だった。だが、人口減少で新設住宅着工数は減少している。今後は、オフィスや学校などの非住宅にもどんどん木材を使ってもらいたい。洗練されたシンボリックな大型木造構造物が増えると、世の中の関心もさらに高まるだろう。我々も、木材の良さや重要性をアピールできればと思っている。
民間の技術・製品開発に加え、国交省の建築規制緩和など、今まさに大きなチャンスが訪れている。森林分野では、J-クレジット(※4)のような新しい取り組みも動き出している。課題もあるが、林業・木材産業の成長への流れを、我々がしっかりと下支えしていきたい。

※4 CO2等の排出削減量や適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年8月23日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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