長崎・平和祈念式典の縮小開催 「知事不在」に疑問の声も… 参列者の範囲巡り、議論

台風接近に伴い規模を縮小して屋内開催となった平和祈念式典。会場内は空席が目立った=長崎市、出島メッセ長崎

 長崎県長崎市が9日の「長崎原爆の日」に開いた今年の平和祈念式典は、台風接近に伴い、会場が平和公園(松山町)から出島メッセ長崎(尾上町)へ変更された。市は安全確保などを理由に来賓の首相や知事らの招待を取りやめ、参列を市関係者らに限った。これに対し交流サイト(SNS)上では、被爆県の代表でもある大石賢吾知事の姿がないことに疑問の声も。慰霊における「関係者」の範囲を巡って議論になっている。
 「県民の代表として知事の参列を認めてほしい」。会場変更が決まった翌日の7日、県は市に申し入れた。だが「例外はつくれない」と市の方針は覆らなかった。
 当日、大石知事は県庁で防災対応に当たりながら、庁内であった県職員原爆慰霊追悼行事に出席。そこから数百メートルしか離れていない出島メッセでの式典には、ビデオメッセージを寄せるにとどまった。
 60年ぶりの屋内開催となった式典の参列者は、市幹部や市議、被爆者代表の計42人に絞り込まれた。ほかに会場に入れるのも運営担当者やマスコミに限った。鈴木史朗市長は規模縮小を「苦渋の決断」とし、被爆者ら他の参列予定者に理解を求めた。
 一方、SNS上では、知事が出席しないことに疑問の声が広がった。さらに知事自ら「市から参列を断られた」と発信すると、「なぜ」との反応が相次いだ。関係者によると、知事は説明に苦慮し、式典後も県と市が協議。市長がX(旧ツイッター)で「知事に限らず、全ての参列を基本的に例外なくご遠慮いただいた」と改めて釈明する格好となった。
 だが実は“例外”があった。市の招待で来日した姉妹都市の外国人ら数人は、式典の見学を認められた。市は「参列者として扱っていない」とするが、同市区選出の県議は「私たちも市民の代表だ。会場で追悼したかった」とつぶやく。
 市外の県議も「被爆者や遺族は県内全体にいる」と指摘する。長崎の原爆死没者名簿に記載されているのは累計19万5607人分。このうち3314人分は、市が新たに加えて今年の式典で奉安し、その2割が市外の県民だった。県関係者からは「県民を代表する知事と県議会議長は参列を認めてよかったのでは」という声も聞こえる。
 一方、あるベテラン市議は「市の判断に問題はない」と言い切る。理由として、原爆・平和行政は市、県全体の防災対策は県が主体的に取り組んできた経緯があることから「それぞれの役割を考えるべきだ」と強調。県と市が連携する政策課題はほかにもあり、関係がぎくしゃくしないかと気にかける。
 被爆者には、改めて関係者が集えるよう式典延期を望む意見もあった。市は、荒天時には会場を変更すると事前に想定していたが、参列者の範囲は決めていなかった。市原爆被爆対策部の阿波村功一次長は「今回は主催者として安全を第一に考えた。来年以降も(規模縮小時の参列は)ケース・バイ・ケースで検討していくことになるだろう」としている。

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