父はなぜ死ななければならなかったのか-。今年5月20日未明、青森県十和田市の十和田湖畔の国道103号で倒木に車が衝突する事故があった。運転していた同市の男性=当時(80)=が頭を強く打ち約3週間後に死亡した。現場は子ノ口交差点から宇樽部に向かって2キロ余りの地点。倒れた木は事故2日前の県の点検で、倒木の恐れがあり「伐採対象」と判断されていた。「危険と判断した時点で伐採や補強はできなかったのか。観光客も多く通る国立公園内の道路で同じような犠牲は二度とあってはならない」。遺族の無念は募る。
十和田署によると、事故があったのは5月20日午前3時40分ごろ。倒木にワゴン車が正面からぶつかり、フロントガラスの上部が損傷した。木は長さ約15メートル、直径は太いところで約70センチあり、道路を管理する県によると樹種はヤマハンノキだった。
倒れた際に道路を挟んで反対(湖)側の木に先端部が引っかかり、丸太の橋を中空に架けたような状態になっていた。幹はワゴン車の運転席ぐらいの高さにあり、現場に駆けつけた消防隊員によると「車に木がのしかかっているような」状態だった。
亡くなった男性の50代の次女によると、男性は事故前に運転免許を更新したばかりで、当日は十和田湖で釣りをするため宇樽部へ向かっていた。残されたドライブレコーダーの映像を見る限り、制限以下の速度で安定した運転をしていた。ガスがかかっていて、ライトは下向きだった。「父にとっては50年近く通った道。日中は観光バスも走り、交通量の多い国道に大木が倒れているとは思わなかったと思う。あの倒木さえなければ…」
県は2003年に奥入瀬渓流で起きた落枝事故を受け、歩道や道路に危険が及びそうな樹木の点検を行っている。事故現場の国道103号子ノ口-宇樽部間ではおおむね2年に1回、5月ごろに行う。現場は国立公園内のため、伐採対象とされた木は環境省など関係機関と協議した上で11月ごろまでに切っているという。
今回のヤマハンノキは14年度に枯死した枝を伐採。18年度にも枝の枯死を確認していた。今年5月18日の点検で幹の根元付近が空洞化していることが分かり、樹木医が「伐採した方がいい」と判断していた。
「父の釣り仲間から、当日の午前0時半ごろに同じ道を通ったが倒木はなかったと聞いている。点検が2年に1回で、伐採まで半年かかるというのも一般的な感覚でみてどうか。せめてロープなどで補強してくれていれば」。次女は県の対応に疑問を投げかける。
県によると、危険が差し迫った木であれば関係機関との協議を待たずに伐採できるが、今回倒れた木について担当者は「葉が青々としていた」「(5月の点検後)すぐに倒れるとは考えていなかった」と東奥日報の取材に話した。
事故を受け、県は本年度の点検で伐採対象となった木の処置を早め、8月中旬に作業を終えた。取材に対し、来年度以降も伐採を早めていく方針を示し、点検頻度も検討課題とした。