ディクソンが巧みなレース戦術で2連勝。琢磨は今季ラストレースを飾れず/インディカー第15戦WWRT

 ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイでNTTインディカー・シリーズ第15戦が開催され、27日に行われた決勝レースをスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が勝利を収めた。

 今年のここまでのオーバルレース4戦すべてで勝っているのがジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)。今週末のシリーズ第15戦はミズーリ州セントルイス郊外のワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイでの開催だが、この地でのレースを昨年彼は制している。

 そのレースを勘定に入れれば現在オーバル5連勝中なのだ。そんな彼が予選ではチームメイトのスコット・マクラフランに敗れての2番手となったが、マクラフランは予定外のエンジン交換で9グリッド降格のペナルティを受けねばならず、ニューガーデンがPPからスタートする権利を手に入れた。

 チャンピオン争いでランキング3位につけていいる彼とすれば、ここで勝つかそれに近い成績を残して勢いを掴みたいところ。今年のオーバル5戦完全制覇がなれば、大きな勢いを掴むことができると期待に胸を膨らませていた。

スタートからレースをリードするジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)

 そんなニューガーデンにPPスタートという幸運が転がり込んで来たわけだが、今週末の彼は勝ち切ることができなかった。アイオワでのようにマシンの仕上がりでライバル勢に明確な差をつけることができておらず、それは焦りにつながった。

 意外にも、彼に代わってレースの主導権を握ったのはスコット・ディクソンだった。6度のタイトル獲得経験を持つ彼がひとつのレースでイニシアチブを取ることには何の不思議もないのだが、今回の彼はマクラフランと同じペナルティを受けての16番手スタート。

 そこから燃費セーブを徹底し、しかしスピードは高いものを保ち続けてトップに躍り出たが、スピードでニューガーデンに対抗して勝利を掴むところまで行くとは思えなかった。

 ディクソンの勝因は、3回のピットストップで260周を走り切ったこと。ライバル勢は彼より1回、あるいは2回多くのピットストップをこなしてのゴールとなった。

 予選からレースの前半までではペンスキー勢にスピードの優位があると見られていたが、今年のレースではディクソンを筆頭とするガナッシ勢にも十分コンペティティブなスピードが備わっていた。

 スポット参戦の佐藤琢磨(チップ・ガナッシ・レーシング)のアクシデントで120周目から2回目のフルコースコーションが出された時、ディクソンらトップグループは全員がピットに向かった。ところが、135周目にリスタートが切られると、ディクソン以外のドライバーたちはそのスティントを早めに切り上げる作戦に出た。

レースをリードするスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)

 ディクソンはただひとりストレッチして、残り1回のピットでゴールまで走り切れる状況を作り上げた。この作戦を選んだのはディクソンだけだった。

 多くのチームが各スティントを短くしようと考えたのは、タイヤの摩耗によるペースダウンを嫌ったためだ。しかし、フレッシュタイヤを履いたとしても、コース上にはマシンが多いために誰も思うようにペースを上げることができずにいた。

 8月のセントルイスとしてはかなり涼しい摂氏30度以下という気温と、吹き続ける風によって上がらなかった路面温度によって、タイヤの持ちが良くなっていたこともディクソンの作戦に優位をもたらした。もちろん、そうしたメリットまでを考慮して彼らはその作戦に打って出たのだ。

 ニューガーデンは3回目のピットストップの後に自分たちに勝ち目がないことを知り、集中力を失ったのかクラッシュを演じた。それで彼の三度目のタイトル獲得の夢は消滅。

 粘っていたウィル・パワー(チーム・ペンスキー)もゴールを目前に燃料補給のためのピットストップして後退。ディクソンは2位に22秒以上という超大差をつけて今シーズン2勝目、第14戦インディアナポリス/ロードコースからの2連勝、キャリア通算55勝目を挙げた。

「チーム全員による勝利だよ。船の舵はオーナーのチップ・ガナッシが取っていて、素晴らしいスタッフを誇りに感じている。今日のように後方グリッドからのスタートの場合(16番手)、何か独自の作戦を採用する必要があるんだ」

「今日はHondaエンジンの燃費の良さをご覧頂けただろう。チームが無線で伝えてくる数字を僕は難なく達成してマシンを走らせ続けることができていた。今日の勝利はHondaによってもたらされたものだ。そうした戦いを実現させてくれたチームのクルーたちに深く感謝したい。残る2レースでもチャンピオンになることを目指し、全力を尽くして戦いたい」とディクソンは語った。

 中団からのスタートだったため、まずは最初のスティントを長くして順位を上げることを狙ったディクソン。自分がストレッチをしている間にフルコースコーションが出れば、ライバル勢を一斉にラップダウンにできることにも期待してのことだった。

 アクシデントは非常に少なく、ロングスティントでライバル勢を大きく突き放すことはできなかったが、多くのマシンがコース全体に散らばって走る状況は、ショートスティントで新品タイヤのグリップを活かそうと考えたライバル勢に不利をもたらした。

 オーバーテイクができず、ペースもタイヤの状況に見合っただけ上げることができなかったのだ。ロングランを重ねたディクソンは、みんながペースを上げられない中、トップを守るのに十分なペースをキープし、着々とゴールへ近づいていった。

 ポイントリーダーのアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)は第14戦と同じく7位でゴール。堅実に上位でフィニッシュすべく、リスキーな作戦を取ることは避けていた。これで今シーズンの15戦すべてでトップ10入りし、優勝したディクソンに74点差でランキングトップを維持している。

 2位はパト・オワード(アロウ・マクラーレン)。15戦を終えてもまだオワード、そしてアロウ・マクラーレンには勝ち星がない。残りはもう2戦しかない。

 3位はデイビッド・マルーカス(デイル・コイン・レーシング・ウィズHMD)。昨年のWWTRでキャリアベストとなる2位フィニッシュをした彼が、今年もキッチリ表彰台に上った。

デイビッド・マルーカス(デイル・コイン)

 琢磨は前述の通りアクシデントでレースを終えた。土曜日のプラクティスで3番手のタイムを出し、決勝日午前中に行われた予選では8番手につけたが、11号車はインディアナポリス/ロードレースの後に予定外のエンジン交換を行ったため9グリッド降格のペナルティが科せられ、17番手からのスタートとなった。

 琢磨のマシンはスタート直後のペースが悪く、早めにピットストップを行ったが、コースへと戻った直後に走行ラインを外れて大幅なタイムロス。1周遅れに陥ると挽回するためにハードにプッシュ。そうしている間に2回ほどマシンのコントロールを乱し、その2回目にバランスを大きく崩して壁にヒット。141周でレースを終えた。

「タイヤかすに乗り上げてウォールにヒットしました。このような終わり方はもちろん望んでいませんでした。それまでにもマーブルには何度か苦しめられましたが、結果的に、これが致命傷となりました」

「ターン1で勢いに乗ったので、そのままターン2を目指したため、気付いたときには手遅れでした。チップとチップ・ガナッシ・レーシングには心からお礼を申し上げます。懸命に働いてくれたチームのメンバーにはお詫びの言葉もありません」と琢磨は語った。

 インディカーにスイッチして来てから13年間フルシーズンを戦って来た琢磨は、今年初めてオーバル5戦のみに出場するスポット参戦を行ったが、その難しさを痛感したという。

「毎週乗っているドライバーたちのように、マシンのすべてを自分のものにできていなかった。インディ500はプラクティス期間が長いので良いのですが、今回のようにたった1時間だけのプラクティスで予選、さらには決勝へと進むというのは本当に難しい」とWWTレースウェイで琢磨は話した。

 世界最大、伝統も世界一を誇るインディア500では今もトップの実力を誇る琢磨は、来年もインディ500優勝を目標とした活動を続けて行くことになるだろう。それは今年と同じくチップ・ガナッシ・レーシングから行うのが理想だ。

 今シーズンの5戦出場でマシンがどんなものであるかは理解し、チームにも馴染みができた。彼らがシリーズトップの戦闘力を保持している。今週末、彼らはWWTRで今シーズンの出場チーム内で最多となる6勝目を挙げた。

 フラットなポートランドとアップ&ダウンの激しいラグナ・セカ。パロウとディクソンはチームメイト同士でチャンピオンの栄冠をかけた戦いを繰り広げる。

決勝レースはリタイアに終わった佐藤琢磨(チップ・ガナッシ)

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