【MLB】「雑草魂」契約金1000ドルのマコーミックがアストロズを牽引

写真:契約金1000ドルから主力まで上り詰めたアストロズのマコーミック

アストロズといえば、無名選手を主力まで育て上げる育成力が思い浮かぶ人は少なくないだろう。

昨季17勝を挙げエースに成長したフランバー・バルデスは2010年にわずか1万ドルでアストロズと契約し成り上がった。不動のセットアッパーを務めるブライアン・アブレイユもわずか4万ドルで契約しているし、昨季15勝を挙げたルイス・ガルシアも契約金はわずか2万ドルだ。無名の原石を発掘し、育て上げる能力こそがアストロズを常勝チームたらしめてきた。

そしてまた、アストロズが見つけ出した原石が本格開花の時を迎えている。ドラフト時はわずか1000ドルの契約金で入団しながら今季ここまで89試合で19本塁打、OPSは.887。総合指標WAR(Fangraphs版)は3.7で、これはヤンキースのアーロンジャッジすら上回る。そんな彼の名はチャズ・マコーミックという。

マコーミックはミラーズビル大学ペンシルベニア校時代の2017年にドラフト21巡目(全体631位)で指名を受けた28歳。ミラーズビル大学ペンシルベニア校は野球の面では無名で、野手という括りで見れば彼以前にMLBまで昇格した卒業生は1人もいなかった。

そんな経緯もあって、順位や契約金からしてもまったく期待されていなかったマコーミックだが、徐々にその打力が開花。2020年にはMLB公式のプロスペクトランキングでチーム内25位の有望株として名前が知られるようになる。

そして2020年の9月29日、チームはマコーミックとのMLB契約を締結。出場こそなかったものの、彼はついに大学卒業生初のMLB選手となり、2021年には開幕からロースターに名前を連ねることとなる。主に対左投手時の外野手として起用されたマコーミックは108試合の出場で打率.257、14本塁打、WAR2.3をマーク。見事MLB定着を果たしていた。

ドラフト21巡目の選手がMLBに定着を果たすということ自体が素晴らしいことだが(2010年まで遡っても、ドラフト21巡目からMLBに定着した野手はほとんどいない。投手では2012年のマット・ストラムがいる)、マコーミックが素晴らしいのは今季になってリーグでも屈指の打者に変貌を遂げたことだ。

特に素晴らしいのは対左投手の成績だ。マコーミックはここまで左投手に対して97打席で.340、8本塁打をマーク。平均を100とした時の打撃貢献を示すwRC+は189で、100打席以上立った選手というくくりで見れば全体3位。対左投手だけならばムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンといった、リーグ最高クラスの打者と方を並べるほどの成績を残している。

また、ストレート(フォーシーム)への対応も非常に強く、対フォーシームの打率は.393。フォーシームを投じられた結果を得点換算した「Run Value」は21点で、これは平均的な打者が同じだけフォーシームを投じられた場合に比べて、マコーミックは21点アストロズの得点を増やしたと考えることができる。この数値はフリーマンに次ぐ全体2位であり、大谷翔平すらも上回る凄まじい成績だ。

一方で、彼がここまで成績を伸ばすことができた理由に対右投手の打撃改善があったことも忘れてはならない。マコーミックは昨季、右投手に対して打率.232、wRC+95と平均以下の成績しか残せていなかった。しかし今季はここまで打率.250、wRC+122。苦手の右投手を克服したことが出場機会の増加につながり、大きな貢献を産むことにつながっている。

アストロズは現在レンジャーズ、マリナーズと熾烈な優勝争いの真っ最中。マコーミックがここからどの程度の成績を残せるかが、チームの優勝にも影響するのは間違いない。ブレークを果たした「雑草」が、チームを2年連続の世界一に導くことはあるだろうか。

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