社説:大阪の高校無償化 京滋とも丁寧な調整が要る

 京都と滋賀の高校教育にも大きな影響を与えるにもかかわらず、十分な説明がされていない。

 大阪府は、高校の授業料を完全無償化する制度案をまとめた。保護者の所得制限を撤廃した上で、公費で賄う年間授業料の上限を1人あたり63万円とし、超過分は学校の負担とする。来年度から段階的に実施し、2026年度から全学年に適用するという。

 吉村洋文知事が知事選に勝利した直後の5月に素案を示し、わずか約4カ月で成案化した。大阪からは、京滋など周辺府県の私立高に計8千人ほどが通っているが、新制度の対象に含むとしている。

 吉村知事は大阪府内の私学団体とは協議の上、合意を得たものの、周辺府県への説明は後回しになっている。大阪の対応だけで完結する制度ではなく、このまま見切り発車をすれば教育現場に混乱が生じかねない。

 拙速を慎み、周辺府県や関係団体とも議論して制度を構築することを求めたい。

 大阪府では現在、私立高の授業料について、府内の学校に限り、国の制度に上乗せして原則年収800万円未満の世帯を対象に無償化している。

 新制度は当初、年間60万円の超過分を学校負担としたが、大阪の私学団体との調整で府が公費支出を増やし、上限を63万円に修正した。大阪は全私立高が参加の見込みという。

 吉村知事は「制度の趣旨に賛同する学校に入ってもらうのが前提で、強制ではない」としているが、大阪の生徒が通う近隣府県の私学団体から反発の声が上がっている。

 建学の精神に沿って特色ある教育を行う私立学校は、授業料をそれぞれ独自に決めている。だが、授業料の補助上限が設定されることで「事実上の価格統制になる」との危惧が強い。

 京都府私立中学高等学校連合によると、教育充実費などを含めた加盟校の授業料は平均74万4千円で、上限の63万円を大きく上回る。超過分が学校負担となれば、教員配置や校舎整備などに影響が出かねない。

 一方、新制度に参加しないと大阪から通う生徒が減り、経営に響く可能性がある。

 大阪から京都に通う生徒は約3380人、滋賀は約250人いるという。授業料を払う地元生徒と、自己負担のない大阪からの生徒の間で不公平感が強まる懸念も指摘される。

 吉村氏が率いる政治団体・大阪維新の会にとって完全無償化は、住民投票で2度否決された「大阪都構想」に代わる看板政策だ。共同代表を務める日本維新の会も教育無償化を公約に掲げる。

 大阪府で早期に実現することにより、維新の勢力を国や他自治体で広げるためのアピール材料にする狙いもうかがえる。

 あくまで教育充実の観点から、丁寧に調整を図るべきだ。

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