ライトで照らしてシカの数を把握 農作物被害対策で町が導入 調査続け10年、わなや柵など対策に効果 兵庫・市川

市川町と福崎町境の畑に現れたシカの集団=福崎町内

 山間部にのどかな田園風景が広がる兵庫県市川町で、シカによる農作物への被害が後を絶たない。そうした中、同町が10年以上前から取り組んでいるのが、光を当て動物の姿や目の反射を利用して頭数を把握する「ライトセンサス」だ。シカの生息場所を特定し効率的な捕獲につなげるのが目的で、近年、徐々にその効果が出始めているという。初夏の夜、人知れず続く調査に同行した。(喜田美咲)

■目撃地点を地図に記し対処

 6月上旬の午前0時ごろ、市川町役場(同町西川辺)から1台の軽ワゴン車が出発した。乗っているのは、仮眠を終えた同町地域振興課の近藤準人課長(51)ら同課の職員3人。後部座席には手持ち型のスポットライトが積み込まれた。

 「今日は多い気がする。奥(地区)の方から行こうか」。近藤課長は同乗する職員にそう伝えると、自らハンドルを握った。

 車は農道や林道を低速で進む。街灯が少なく、前方には暗闇が広がる。時折減速しながら、窓からライトで森や田畑を照らした。

 「あ、川のところ。3頭走った」。後部座席の職員が声を上げた。「もうすぐ車の前を横切るで」

 ライトの光で照らされたシカは、じっとこちらを見つめ返してきたり、田んぼを横断して山へ逃げ込んだり。職員たちはシカの姿や目の反射を見つけては頭数を数えていった。

 ライトセンサスは哺乳動物の頭数や種類、生息場所などを調査する方法として、各地の森林研究所などでも用いられている。

 同町がライトセンサスを導入したのは2010年ごろ。県内でもシカが急激に増えた時期で、兵庫県から一度に数頭を捕獲できるわなの使用を勧められた際、効率よく仕かけられるようにと取り入れた。

 実施するのは月1回程度。毎回、報告シートに調査ルートや確認頭数を記録し、シカを目撃した地点を地図に落とし込む。シートには「防護柵に穴が開いていないか地元住民に点検を依頼する」「猟友会にわなをしかけてもらう」といった備考も記す。日中に改めて関係機関と現場に向かい、対処を依頼している。

■一晩で300頭→100頭

 導入から10年以上になるが「いまだに狙われやすい場所の特徴は判然としない」(近藤課長)という。ただシカは警戒心が強く、一度安全だと分かった場所を繰り返し訪れ、道中の田畑には見向きもしない傾向があることが分かった。

 また近年、市川周辺で確認される頭数が増えてきたという。流域が銃猟禁止区域となっていることが影響しているとみられる。

 同町はライトセンサスを導入後、町内のほぼ全域の山裾に柵を張り巡らせ、狩猟を強化。10年前は一晩で300頭近くのシカを確認したが、現在は100頭前後まで減っているという。

 「地道な取り組みだが、着実に効果が表れている。『継続は力なり』やね」と近藤課長。だが町内では今年も農作物が全滅した畑があるといい、シカとのいたちごっこは続く。

 この日の調査時間はおよそ4時間。シカ102頭に加え、アライグマ1匹、キツネ2匹を確認した。

 近藤課長は「後継者不足で存続が厳しい時代に農業を続け、農地を守ってくれている人たちがいる。本当にありがたい。町としてできることは尽くしていきたい」と話し、大きく伸びをして帰路に就いた。

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