マンション階下で火災、駆け付けた部屋には煙が充満…冷静に消火器で消し止めた夫妻を表彰 兵庫・加古川

感謝状を受け取る田中宏典さん=加古川市平岡町一色、同市東消防署

 マンションの一室からの火災に気付き、初期消火したとして、兵庫県加古川市東消防署は、同市平岡町土山の会社員、田中宏典さん(40)と佳織さん(41)夫妻に感謝状を贈った。火災警報器の音で駆け付け、ドアを開けた時は部屋に煙が充満。冷静に消火器を使って消し止め、被害拡大を防いだ。

■「また誤作動かな」

 6月26日午前7時半ごろ、夫妻の住むマンションに火災警報器の音が鳴り響いた。

 警報器は、これまでよく誤作動を起こしたことがあったという。朝食を終え、コーヒーを飲んでいた宏典さんは「また誤作動かな」と思った。しかし最近、更新されていたことを思い出し、ベランダに出ると、下の階から煙が上がっていた。

 階段で5階から1階まで下り、火災が起きている部屋を確認。夫妻の部屋の真下から、もうもうと煙が上がっていた。

 4階まで階段で上がると、既に佳織さんが駆け付けていた。

 呼び鈴を押したが、反応がない。ドアの鍵がかかっていなかったので、声をかけて入った。室内には煙が立ちこめていた。佳織さんがスマートフォンで119番した。

 天ぷら油を加熱した鍋から出火し、家人の高齢女性が慌てて、乾いたタオルを何枚もかぶせて消そうとしていた。鍋からは、まだ煙が上がっていた。

 マンションの通路から消火器を持ってきた宏典さんは、119番でつながった加古川市消防本部の係員に状況を伝え、「消火器を使った方がいいですか」と質問。「使ってください」と言われ、消火器のレバーを握った。

 火災発生から十数分間の出来事だった。

 佳織さんはマンションの玄関で駆け付けた消防隊員を迎え、「あちらの階段を使ってください」と誘導。消防隊員が鎮火を確認した。

 消火後も、宏典さんは高齢女性に寄り添い、事情を聴こうとした消防隊員が親族かと思うほどだった。

 宏典さんは火災発生の4日前に、勤務先の会社で消防訓練に参加し、消火器の使い方を教えてもらったばかりだったという。

 感謝状贈呈式は同市平岡町一色の東消防署であり、奥村昌宣署長は「勇気ある行動で、被害が大きく軽減された。訓練の経験が生かされているのは、本当に素晴らしい」とたたえた。

 佳織さんは「とにかく必死で、やらないといけないことをやっただけで、感謝状をもらえるなんて思わなかった」と笑顔。宏典さんは「火災を消火したのは初めての経験だった。こんなに褒めてもらうことはないので、うれしい」と話した。(斉藤正志)

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