社説:中国の反発 粘り強い対話と発信を

 東京電力福島第1原発処理水の海洋放出により、日中関係が悪化している。

 中国は日本の水産物輸入を全面的に停止し、加工や調理、販売も禁止すると発表した。反日感情が拡大し、中国からとみられる迷惑電話などの嫌がらせが相次ぐ。

 中国政府に事態の収拾を求めるとともに、日本は冷静に対応を進めたい。

 日本政府は国際原子力機関(IAEA)の協力を得て安全性を訴えてきた。一方、事故が起きた原発の処理水を海へ長期放出するのは世界で前例がなく、国内でも懸念が残る。他国が神経をとがらせるのはやむを得ない面もあろう。

 だが科学的根拠と合理性を欠いた中国の反発はあまりにも威圧的で、国際的にも突出している。迷惑電話は無関係の市民まで標的となっており、許されない。

 放出は少なくとも30年間は続くとされるため、中国の禁輸は長期に及ぶ可能性もある。日本の輸出への打撃は避けられない。

 昨年の農林水産物・食品の輸出額は1兆4140億円と過去最高を更新した。中国向けが最も多く、同様に規制を強めた香港が続く。水産物は中国が871億円、香港は755億円で、ホタテやナマコなどが中心となっている。

 政府は海洋放出に伴う風評被害対策と漁業継続支援に計800億円の基金を設置した。水産業全体に十分な支援が欠かせない。

 嫌がらせは、日本大使館や日本人学校への投石が多数発生する事態となっている。交流サイト(SNS)でも日本への攻撃的な投稿が相次いでいる。

 中国では指導部を批判する書き込みはすぐ削除される。当局が容認しているのは明らかだろう。

 不動産市場が停滞し中国経済は減速、若者の失業率は悪化している。海洋放出問題は外交カードというだけでなく、不満を国外に向ける狙いもあるのではないか。

 過去にも中国では、沖縄県・尖閣諸島の国有化などを巡って激しい反日運動が繰り返されてきた。今年は日中平和友好条約の調印から45年の節目に当たる。関係改善の動きもみられたが、機運に水を差すことになり残念と言うしかない。

 国内的にも見切り発車の放出だったが、「想定外」だったとする中国の動きも含め、岸田文雄政権の見通しの甘さは否めない。

 日本政府は多角的な情報公開や安全管理を進め、粘り強い対話と発信で関係修復に手を尽くさなくてはならない。

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