蹴られたり、下着切られたり…中学でいじめ「自殺考えた」 落語家・桂まめださんにあるとき転機が

「無口な落語家」と紹介されることもある桂まめださん=神戸市兵庫区新開地2、神戸新開地・喜楽館

 さあ、2学期-ですが、学校の人間関係に悩み、つらい思いを抱える子も少なくないはず。落語家の桂まめださん(56)は中学時代、周囲からのいじめに苦しみました。「自殺も考えた」こともあるといいますが、ある気持ちの切り替えが転機となったそうです。専門家にも助言を聞きました。(中島摩子)

 -どんな小学生でした?

 「緊張してオドオドし、しゃべりたいけどしゃべれない。言葉が出るまでに時間がかかり、しゃべろうとすると、みんなは次の話題に移っています。自分に自信が持てませんでした」

 -中学時代は?

 「中学1年の時、授業中に話していて先生に怒られ、立たされたことがあります。僕は立ったまま泣いてしまった。それから『気持ち悪い』『弱い』と言われ、いじめが始まりました」

 「蹴られて泣いたり、ハサミで下着を切られたり。『あっち行け』と言われ、学校にいくのが本当に嫌でした。2学期が始まる時はゆううつ。学校が嫌で、生きるのも嫌で、自殺を考えたこともあります」

 -何か転機が?

 「中学の卒業文集で、自信満々にえらそうに、自分のことを書いている同級生がいたんです。それを読んで最初は『なんやねん』と思ったけど、『俺かてできる。俺の何が悪いんや』という気持ちが不思議と湧いてきました。開き直りというか…。高校からはいじめられなくなりました」

 -その後は?

 「コミュニケーションは苦手なままで、すし屋で働いても11カ月で辞めたり、工場で働いたり…。でも、落語は好きで、素人落語の会で活動していました。緊張するし、オドオドするけどウケたらうれしい。32歳の時、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、桂文福師匠に弟子入りしました」

 「失敗ばかり、怒られてばかりでも、『間がおもしろい』『まめちゃんにはまめちゃんの良さがある』と言ってくれる人がいる。自分の弱点も今となっては個性かなと思えます。横(他人)と比べたら悩むけど、自分の人生を縦で見ると、よく生きてきたなぁ、と」

 「昨年、長女が生まれました。運送のアルバイトをしながら落語家の仕事を月に何回かし、生計を立てています。中学時代、世の中の色は真っ黒だったけど今はブルー。生きづらいし、ゆううつな日もあるけど、黒ではない。生きてて良かったと思います」 ### ■苦しむ子どもたちへ「あなたが悪いんじゃない」

 いじめに苦しむ子どもたちや、周囲への大人へのメッセージを兵庫県教育委員会「ひょうご不登校対策推進協議会」の副会長で、奈良女子大大学院の伊藤美奈子教授(62)=学校臨床心理学=に聞きました。

 -子どもたちへ。

 「我慢しすぎず、誰か1人でもいいので、信頼できる大人に相談してみてほしいです。話すのは勇気がいるけれど、本気で守ってくれる大人はいます。そして、相談された親や先生は、子どもに『あなたは悪くないんだよ』としっかり伝えてほしいです。時々、『あんたも悪かったんちゃう?』という言い方をする大人がいるけれど、それはやめてください」

 「いじめはけんかとは違います。いじめる側がコンプレックスやねたみ、モヤモヤを抱えていて、いじめにぶつけていることもあります。そして、いじめられている側は、自分が悪いと思わされているだけ。あなたが悪いんじゃないと、子どもに確実に伝えてほしいです。『悪くないから学校に行こう』という親もいるけど、しんどい時にそれは地獄になるので、『休むのもいいんじゃない?』という逃げ道を残すのがいいです。そして学校に相談し、家庭と学校がしっかり手をつないでおく必要があると思います」

 -子どもがSOSを出すのは簡単ではないですよね。大人はどうすれば?

 「本当にしんどい子ほど、『助けて』が言いにくいです。ただ、気持ちがしんどいと、眠れない▽食欲がなくなる▽無口になる▽顔色がさえない-などに表れるので、その辺りに注意を配ると早めに発見できると思います。『しんどいことがあったらいつでも聞くよ』『味方だよ』というメッセージを、普段から伝えておくのは大事です。心にズカズカと入られるのは嫌がる子もいるので、『食欲なさそうだね』『眠れてる?』など、体調を心配する声かけもいいと思います」

 「話さなくても、一緒に折り紙をしたり、一緒に絵を描いたりするのもいいです。思い詰めていた気持ちがゆるんだり、一時的であれ気をそらすことで、気の持ちようが変わることもあると思います」

 -いじめへの対処は?

 「離れること、距離を取ることは、大事だと思います。相手とぶつかって解決しよう、という意見もあるかもしれないけど、とにかく関係を持たないことも解決法の一つ。『逃げる』というとネガティブに思うかもしれないけど、自分から距離を置くのは一つのやり方です。学校だけが自分の世界じゃない、世界は広い、『今』だけじゃない、と思えたらだいぶん違うと思います」

 【お知らせ】今回インタビューに応じてくれた落語家、桂まめださんは、上方落語の定席、神戸新開地・喜楽館=神戸市兵庫区=で5日から始まるコンクール「喜楽館AWARD(アワード)2023」に出場します。

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