J1神戸獲得報道の元スペイン代表MFフアン・マタ!神戸の堅守速攻スタイルのラストピースとなる可能性

今月30日深夜に、「元スペイン代表MFフアン・マタがJ1ヴィッセル神戸加入の可能性浮上」とスペイン、日本の複数メディアが報じた。

欧州各国の移籍市場がきょう31日で閉まる中、飛び込んできたニュースは世界中で話題になっている。

神戸は現在リーグ2位と勝ち点差1で横浜F・マリノスを追いかけているが、マタの獲得に対して懐疑的になっているサッカーフリークも少なくない。

なぜなら今季の神戸は吉田孝行監督が堅守速攻の戦術を採用しており、このスタイルにマッチしない元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ、スペイン人MFセルジ・サンペールが相次いで退団したからだ。

だが筆者はマタが神戸のサッカーに順応し、往年の輝きを取り戻す可能性があると考えている。マタが神戸のラストピースになり得るかを考察する。

ラストパスに特化したチャンスメイカー

まずマタのプレースタイルを触れていきたい。マタはアシストに特化したタイプのチャンスメイカーであり、相手の虚を突いたタイミングでの超高精度パス、ピンポイントクロスが持ち味だ。

チェルシー在籍時の2012-13シーズンはリーグ戦35試合12得点16アシストと、アシスト数では同シーズン最多を記録。年間公式戦において35アシストを記録するなど、マタのラストパスによりチームは多くの得点を重ねた。

堅守速攻と相性抜群のスタイル

ラストパス以外にも2列目の飛び出し、左利き選手ならではの相手の逆を突くセンス、幅広い視野から的確な選択をする状況判断能力などに優れているが、マタの特筆すべき長所は堅守速攻との相性の良さにある。

マタはこれまでスペイン1部バレンシア、イングランドプレミアリーグのチェルシー、マンチェスター・ユナイテッドに所属してきた。どのチームもフィジカルを重視した堅守速攻のチームであり、マタは猛獣使い如くフィジカルモンスターを手足のように動かしてきた。

例えばスピードと推進力のある選手に対しては、ボールをキープしながらマークを引き付けて、ラインブレイクを促すスルーパスを前線に打ち込む。

ヘディングに長けた選手であれば、局面に合わせてボールの球種やスピードを変えてピンポイントクロスを放つなど、堅守速攻のスタイルで重用される選手との相性がいい。

極めつけは攻守のトランジション(切り替わり)を予期したポジショニングと切り替わった瞬間の初動の速さにある。予測と経験則により、切り替わる瞬間に顔を出して、クリティカルなパスを展開する。

このトランジションのスイッチャーとしての役割を強度の高いプレミアリーグでしっかりこなしていた。判断の速さと、読みの正確さなどが並外れていた。

神戸の選手術も同じく堅守速攻型であるため、マタの特徴を十分に引き出せる環境にある。そしてマタはキャリアを通じて堅守速攻のノウハウをしっかりと理解しているため、神戸にとって打ってつけの人材になり得る。

選手層が薄く、試合後半になると厳しい展開に陥りがちだったチームにとって、大きな変化を与えられる可能性がある。

イニエスタとの違い

ポゼッションの申し子であるイニエスタとマタは比較されがちだが、似て非なる選手と断言していい。確かに卓越したパス能力、相手を軽やかにかわすドリブル、類を見ない視野の広さなど共通点もあるが、まったくと言っていいほど異なる選手だ。

まずマタは対人守備能力も一定の評価がされている。トランジションが激しく切り替わるプレミアリーグのサッカーにおいて、アスリート能力の高さと肉体的な強度は必要不可欠だ。本職の守備型ミッドフィルダーほどではないが、マタも球際の守備やタックルなどをしっかりとこなしていた。

伊達に世界最高の強度を求められるプレミアリーグに11シーズンも在籍していたわけではない。この守備能力についてはイニエスタよりも優れている可能性が高い。マタも加齢による身体的な衰えはあるが、神戸の強度にはある程度順応することはできるだろう。

さらにプレースキックの威力や精度も違いがある。イニエスタはプレースキックを務めることがあったが、ふんわりとした軌道のボールは相手のストーンがはじく場面が多かった。

一方でマタは様々な球種を蹴られるため、フリーキックでの得点やコーナーキックでのアシストも期待できる。そして利き足の違いもあるため(マタは左利き)、ボールの質も大きく変わるだろう。

ただ天性の柔らかいタッチからの鋭い攻撃、ドリブル突破からの豊富なアイディア、パスワークを用いた組織破壊、一瞬のひらめきなどはイニエスタより劣る面がある。

ただイニエスタをポゼッションの申し子と称するなら、マタは堅守速攻の権化と言っていいだろう。現在の神戸のスタイルを考えると、マタはイニエスタより高い確率でフィットするだろう。

もし起用されるならどこのポジション?

もしマタが神戸に加入するとして、実際に起用されるとしたらどこのポジションになるのだろうか。

現在神戸が使っているフォーメーションはアンカーを配置した4-3-3を採用しているため、インサイドハーフに配置される可能性が高い。

ワイドであれば右サイドで起用されるだろう(カットインした際に左足がゴール側に向くため)。左サイドで起用されればクロスやパスを駆使してチャンスメイクに徹することもできる。

求められる役割は前述した攻守のトランジションが切り替わった際に、カウンターの起点となるスイッチャー役と、後方から適切な場所にラストパスを放つアシスト役などチャンスメイカーの役割を託される可能性が高い。

加齢による衰えもあるため、ワイドでのスプリントや身体能力を生かした突破などは難しいかもしれない。

ただ現在の神戸はチャンスメイカーの役割をフィニッシャーのFW大迫勇也が兼任している場面が多いため、大迫の負担軽減も期待できる。

堅守速攻のノウハウを理解したベテランであるため、例えばこの局面であればどういった守備対応が必要か、この局面はどのような展開でパスを前線に配給すればいいか、などのカウンターに必要不可欠なプレーは水準以上にこなすことが期待できる。

そのため、神戸でプレーが浮く可能性は低いだろう。

大迫がマタと化学反応を起こす可能性

マタの加入により大迫との化学反応を起こす可能性がある。

大迫は今季リーグ戦25試合19得点4アシストと得点ランキングトップに立っている。リーグ屈指のフィニッシャーとして活躍する一方で、チャンスメイカー役も兼任している。

大迫は身体能力に優れたストライカーは非凡なフィジカル、絶妙なバランス感覚でボールをキープし、マークを引き付けた状態からライン間でボールを受けてから精度の高いラストパスでチャンスを演出するなどチャンスメイカーとしても素晴らしい才能を見せつけている。

ただフィニッシャーとして専念させられない点やチャンスメイカーを兼任することで、大きな負担を強いている。

そこでチャンスメイカーとして優れた実績を持つマタが加入すれば、大迫はフィニッシャーに専念できる。これにより背番号10の負担軽減とマタの精度の高いパスとアイディアによって、より多くの得点機会に集中することができる。

また、マタは堅守速攻型の選手と相性もいいため、並外れたスピードを持つFWパトリッキ、無尽蔵の走力を持つFW武藤嘉紀、ドリブルでの単独突破を期待できるMF汰木康也と、ワイドアタッカーの特徴に合わせたパスの供給や連係のかかわり方で攻撃をより活性化できるだろう。

そしてDF初瀬亮やDF酒井高徳とのビルドアップやパスワークで攻撃の流動性形成できる可能性も秘めている。

余談になるが、小説家の村上春樹さんを愛読するマタにとって神戸は特別な町だろう。なぜなら村上さんの処女作「風の歌を聴け」は神戸を舞台に書かれているからだ。

ハルキスト(村上春樹さんのファン)としても縁が深い街であり、同じ関西圏のセレッソ大阪には盟友の香川真司が所属しているため再会の可能性がある。マタにとって神戸は理想的な街になるかもしれない。

マタが神戸に加入すれば、現状の堅守速攻スタイルをより高いステージへと導くことができるかもしれない。

ワールドカップ、UEFAチャンピオンズリーグ、欧州選手権を制したクラックだが、意外にもキャリアでリーグ戦を1度も制したことがない。

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