タイトル争いはパロウとディクソンの一騎打ちに。7人のルーキー・オブ・ザ・イヤー争いにも注目

 8月26~27日にワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ(WWTR)で開催されたNTTインディカー・シリーズ第15戦は、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が圧倒的なリードで勝利を飾り幕を閉じた。これで、2023年のNTTインディカー・シリーズも残すところは第16戦ポートランドと最終戦ラグナ・セカの2戦。

 現在チャンピオンの可能性を残しているのは、565点でランキングトップのアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)と、491点でランキング2位のディクソンのふたりのみとなっている。

 つまり、シリーズチャンピオンはどっちに転んでもチップ・ガナッシのドライバーになる。さらに、どちらがタイトルを獲得してもホンダドライバーがチャンピオンの座に就くということでもある。

 パロウがチャンピオンとなれば、2021年に続くキャリア2回目となり、ディクソンが逆転でチャンピオンとなれば、それは彼にとってのキャリア7回目のタイトル獲得となる。7回目のチャンピオン獲得となれば、AJ・フォイトに並ぶインディカー史上最多タイトルとなる。

2年ぶり6度目のシリーズチャンピオンに輝いたスコット・ディクソン

 チップ・ガナッシ・レーシングにとっては15回目のインディカータイトルで、ホンダにとってはのべ19回目のチャンピオンとなる(これまでにホンダと共にタイトルを獲得しているのはジミー・バッサー、アレックス・ザナルディ、ファン-パブロ・モントーヤ、ジル・ド・フェラン、トニー・カナーン、ダン・ウェルドン、サム・ホーニッシュJr.、ダリオ・フランキッティ、ディクソン、パロウの合計10人)。

 残り2戦でパロウとディクソンの差は74点。1レースで獲得することができる最大得点はボーナスポイントを含め54点で、プラクティスを一度でも走れば5ポイントが与えられるため、最少は10ポイントだ(どちらのレースにも不出場ならポイントはゼロだが、そうなる可能性は極めて低い)。

 もし、次戦ポートランドでパロウが0周リタイアの最下位となり、一方のディクソンがポールポジションも最多リードラップも記録して優勝したとしても、彼らは30点の差を持って最終戦に臨むということになる。

 つまり、2度目のタイトルを狙うパロウが俄然有利な立場にあるのだ。

 また、パロウは実績的にも有利かもしれない。彼は、初タイトルを獲得した2021年にポートランドで優勝しており、ラグナ・セカでは昨年圧勝を飾っている。

ラグナ・セカで30秒のリードを築いて圧勝劇を見せたアレックス・パロウ

 その一方でディクソンは、ポートランドでもラグナ・セカでも優勝経験がない。しかし、ディクソンはタイトルを争った経験を豊富に持っており、かかるプレッシャーは若いパロウに対するものの方が大きいだろう。それに押しつぶされずに着実にポイントを重ねる走りがパロウには求められる。

 パロウとディクソンはチームメイト同士なので、どちらかがマシンやセッティングで明確なアドバンテージを手に入れるのは不可能。お互いに手の内は完全に明かされている状況でもある。これが有利に働くのはどちらだろうか。

ミド・オハイオでバトルするアレックス・パロウとスコット・ディクソン

 タイトル争いをする二人が慎重な戦いを余儀なくされるなか、残り2戦を優勝だけを目指し、アグレッシブに戦って来るであろうドライバーも多い。

 特に、今年未勝利のコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン)、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、パト・オワード(アロウ・マクラーレン)らは、今季速さを披露しながらも勝利に一歩届かなかったレースを見せてきたため、最終2戦の強力な存在となりそうだ。

インディカー第9戦ミド・オハイオ コルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)

 彼ら以外にも勝利を強く望んでいるドライバーとして、ロマン・グロージャン(アンドレッティ・オートスポート)、グラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン)、アレクサンダー・ロッシとフェリックス・ローゼンクイスト(アロウ・マクラーレン)らがいる。

 今シーズン勝利を挙げているなかでは、昨年ポートランドで勝っているスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)が今年も速さを見せるかもしれない。

インディカー第13戦ナッシュビル ポールポジションを獲得したスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)

 また、タイトルの可能性がなくなったとはいえジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)も優勝候補のリストからは外せない。中盤までポイントランキング2位を維持し続けていたマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)も侮れない。

 若手では、今季2勝を挙げているカイル・カークウッド(アンドレッティ・オートスポート)とカナダで初優勝を飾ったクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)もロードコースでのパフォーマンスが良いため、トップグループに絡んできてもおかしくない。

 9月2~3に開催されるポートランドを勝ち取るのはいったいどのドライバーだろうか。

トップを争うカイル・カークウッドとロマン・グロージャン
ポール・トゥ・ウインを飾ったクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン)

■今季デビューは7人。ルーキー・オブ・ザ・イヤーの行方やいかに

 次に、インディカー・シリーズのルーキー・オブ・ザ・イヤー争いに目を向けてみよう。こちらはシンプルにチャンピオンシップポイント獲得数の多寡で決定することになっている。

 今シーズン、インディーカーにデビューしたルーキーは7人。そして、ポートランドからの最終2戦にはさらにもうひとり、ユーリ・ビップスがレイホール・レターマン・ラニガンから参戦することが発表されている。

2022年F1第6戦スペインGP ユーリ・ビップス(レッドブル)

 その中でレギュラーとして2023年シーズンを戦ったドライバーたちは、マーカス・アームストロング(チップ・ガナッシ)、スティング・レイ・ロブ(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)、ベンジャミン・ペデルソン(AJ・フォイト・レーシング)、アグスティン・カナピノ(フンコス・ホーリンガー・レーシング)の4人(カーナンバー順)。

 シーズンも残すところ2戦となって、ルーキーオブザイヤー獲得に最も近づいているのはアームストロングだ。彼のここまでのベストリザルトはトロントでの7位。これは今年のルーキーが記録した最上位リザルトでもある。

マーカス・アームストロング(チップ・ガナッシ)

 また、アームストロングの乗るカーナンバー11にはオーバルレースで佐藤琢磨が搭乗していた。ニュージーランド出身ドライバーはストリート及びロードコースのみの出場だから、フルエントリーのライバル勢より5戦もレース数が少ないという厳しい条件を課せられていたが、179ポイントを稼いでルーキー最上位のランキング20位につけている。

 FIA F2で3勝の実績を持つ彼は現在23歳。2024年もチップ・ガナッシ・レーシングに残ってフルシーズンエントリーをしたい意向だが、果たしてどうなるか。

 アームストロングと20ポイント差の159ポイントでランキング21位にいるのはアルゼンチン出身のカナピノだ。

アグスティン・カナピノ(フンコス・ホーリンガー・レーシング)

 南米のツーリングカーキングはインディカーへの順応も早く、レースを完走する力が高いことも示して来ている。残り2レースでアームストロングを上回る戦績を残せば逆転でルーキー・オブ・ザ・イヤーとなる可能性はある。

 しかし、フンコス・ホーリンガー・レーシングはシーズン進行と共にチームの実力を伸ばせずに来ており、パフォーマンスは停滞気味。チームメイトのカラム・アイロットも昨年以上に苦しい戦いを強いられており、状況は楽観できない。

 ペデルソンはオーバルレースでスピードを見せた時もあったが、不運なものも含めてアクシデントが多過ぎた。彼はフォイトのチームと2年契約なので、来シーズンに繋がる走りを残り2戦で見せたいところだ。

ベンジャミン・ペデルソン(AJ・フォイト・レーシング)

 今週末のポートランドは、昨年彼がインディライツ(現インディNXT)で優勝したコースなので本人も期待を抱いていることだろう。

 残るロブは、チームメイトであるデイビッド・マルーカスがワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイで3位と好調であったときであったも、同じように好パフォーマンスを発揮することができなかった(2ラップダウンの21位)。

スティング・レイ・ロブ(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)

 デイル・コイン・レーシング・ウィズRWRは、今シーズンに向けてエンジニアやクルーのキーパーソンが他チームに引き抜かれてしまい、戦力低下が著しかったため、ルーキーが活躍するのが難しい状況となっていたのも事実だ。

 それでもロブは、最終2戦でキャリアベストとなる活躍をする意気込みだ。特に最終戦のラグナセカに対する期待度は高い。彼は昨年のラグナセカでのインディ・ライツのダブルヘッダーレースで優勝と2位という好成績を残しているのだ。

 フルシーズンを戦った4人のルーキードライバーたちが、1年間でどのような成長を果たしたのか。その答えはポートランドとラグナ・セカの最終2戦で明らかになる。

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